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( ^ω^)が交換殺人をしてしまうようです

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 19:56:00.09 ID:tnWw9rMV0
まとめ 内藤エスカルゴさん
http://localboon.web.fc2.com/095/top.html

今日から君もエスカルガー

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 19:57:42.92 ID:tnWw9rMV0
3.銷夏ノ葉


それにしても夏季というものは鬱陶しい。
暑きに逆らえば気概が削がれる。暑きに委ねれば心が腐る。
何をするにも意欲が出ぬ。

(;^ω^)「焼け死ぬ……」

よって、朝から内藤が茣蓙にうつ伏せ茹だっているのも、ごく自然な事象である。

内藤は職務上、一日中炎天下の町を這いずり回らねばならぬ。
偶に馴染みの客を頼っては、水を一杯分けてもらうことがあるくらいで、後はひたすらに日射を浴びている。

しゃわしゃわと斉唱する蝉の声。
障子紙から太陽の光が透けて差し、本日も灼熱の一日になるであろうことを告げる。

(;^ω^)「……かと言って……このままだらけてるわけにもいかんお……」

己の足で暮らしの費用を稼ぐ必要がある。更に――。

ツンの屋敷に行かねばならぬ。

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 19:59:49.05 ID:tnWw9rMV0
ギコは次回は少し間を空けて三週間後に来るという。
それまでに幾つかツン邸に通い、内情調査と、意思の疎通を図っておかなければならない。
可能であれば用心棒クックルの監察も一度は掻い潜っておきたい。

(;^ω^)「なんか間男みたいだお」

違いとしては、相手側が自分に好意など微塵も寄せていそうにないという、実に初歩的な部分である。

果たしてあの強がりなツンが自分に気を許す日は来るのだろうか。
現時点ではまだ絵空事に過ぎない。

( ^ω^)「あーでも、今日は裏町の長屋にも行かないといかんお。
      クーさんお腹の薬切らしてるかも知れないし……」

もっとも日々の仕事も疎かにはできぬ。
収入面の都合もあるが、何より懇意にしている常連からの信頼度が商人にとっては重要なのである。
ましてや内藤は、生命に関わる場合もある薬を扱う行商。
信用商売なのだ。

( ^ω^)(それに……毎日訪ねても異様に思われるだろうから、数日に一回ぐらいの頻度にしておかないと)

そんなことを寝転がったまま思索していると、戸を下品にがんがん叩く音が鐙骨を打った。
内藤は起き上がりのろのろと戸口へと向かう。

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:03:29.34 ID:tnWw9rMV0
('A`)「おう、内藤。俺だ俺。うっかり溶けてなかったか」

開けたらば、柳行李を担いだ末生り瓢箪がひょっこり立っている。
下瞼には隈が浮き、顎に髭を乱雑に生やし、米型の顔はげっそりと痩け頬輔の形状が露になっている。
この高温にも拘わらず汗水ひとつ垂らしていない。
まるで生気が感じられぬ。幽霊というよりは、死体のような男である。

( ^ω^)「なんだドクオかお。相変わらず不景気そうな面してるお」

('A`)「そいつは最高だな。お前にも不景気の種を分けてやるぜ」

(#^ω^)「金持ちの嫌味は腹が立つお」

ドクオと呼ばれた男は、薄ら笑いで内藤に応えた。

この若者とは十年来の知己である。
いつ自殺するかも分からぬ陰気な風貌だが、これでも呉服問屋鬱田屋の三代目、要するに豪商の生まれである。
顔に似合わぬ小粋な着物を纏っているのもそのためだ。

ただ本人に自覚は然程ない。
あろうことか「家は継がない」、「文筆で飯を食いたい」などと現を抜かすほどであり、
毎日店の帳簿ではなく買い集めた読本と睨めっこを続けている。

そんな富貴浮雲な道楽ぶりも起因してか、
わざわざ備富の最果てに位置する内藤家まで足を伸ばす、数少ない物好きのうちの一人となっている。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:04:10.37 ID:DxdfGgwK0
待ってました!!
しえ

6 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:05:40.29 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「今日は何の用だお。言っておくけど媚薬の類は今後も扱うつもりはないお」

('A`)「俺をなんだと思ってるんだよお前はよ。
   そんな糞くだらねェ用事じゃなくてだな、こいつを届けに来たんだよ」

ドクオは肩に乗せていた行李を下ろすと、仰々しい手つきで蓋を開けた。
その中身に内藤は驚愕した。

(;^ω^)「こ……これは伝説の名酒『痾羅魔鬼』……!」

('A`)「ああ……羅刹と妖魔と悪鬼を殺し、ありとあらゆる痾を滅する、荒巻蔵の究極の一品だ……」

(;^ω^)「熟練の杜氏のみが造ることができるという……まさに神仏の御業……現世の奇跡……」

内藤は感動している。この青年は甘ったるい喋り方に似つかぬ結構な辛口である。

('A`)「お前が処方した頭痛薬でうちの母ァも元気になったんでな。そのほんのお礼よ、お礼」

( ^ω^)「お、ドクオの母ちゃんの病気、治ったのかお? そりゃよかったお」

('A`)「俺としても助かったぜ。毎晩毎晩母ァの呻き声ばかり聞かされてたんじゃ堪んねェからな」

などと減らず口を叩いているが、本来は母親想いな一面があることを内藤は看破している。
目の下の隈は真夜中にまで及ぶ看病の産物であろう。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:06:18.92 ID:QLfqws9a0
まとめ読んだけど凄い面白い
支援

8 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:08:02.95 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「でもこれ、相当値が張ったんじゃないかお? 貰っていいのかお?」

('A`)「金は唸るほどある」

( ^ω^)「言うと思ったお」

('A`)「まあそれは冗談として」

冗談ではあるが、ややこしいことに真実でもある。

('A`)「ほれ、遠慮なく受け取っとけ。俺も母ァもお前にゃ感謝してるんでよ」

(;^ω^)「うーん、でも、やっぱ申し訳ないお。僕は薬屋としての仕事をしただけだお」

('A`)「堅いこと言うなよ。それともまだ寝惚けてんのか?
   俺とお前の付き合いじゃねェか、このぐらい 軽い軽い」

( ^ω^)「しかしこんなによくしてもらっていいのかお? この前も差し入れしてもらったお」

昔からそうである。ドクオは内藤に対してだけは妙に好意的な態度を取り続けている。
ドクオは束の間考えて、

('A`)「水清ければ魚住まず――だよ」

9 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:10:17.20 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「どういう意味だお、そりゃ」

前述のとおり、ドクオは筆と箸より重い物を持たぬ筆耕硯田の生活に憧れている。
書で得た教養のせいか無駄に学がある。
だから時々、内藤の知り得ぬ奇抜な言い回しを用い、友人を困らせて一人ほくそ笑むのだ。

('A`)「そのうち分かるさ。単にお前自身をそのまま言い当てただけだぜ」

( ^ω^)「ふうん」

どうにも腑に落ちない。目前のドクオはにやけ顔である。

( ^ω^)「……まあ、せっかくくれるって言ってくれてるんだから、ありがたく頂戴させてもらっとくお」

('A`)「おう、貰っとけ貰っとけ」

一升瓶を内藤に握らせようとする。
その寸前、ドクオがぽつりと瓶の銘柄を目に入れて漏らす。

('A`)「しかしこの酒……羅・魔・鬼を殺すってのはともかく、痾を滅するとはどういうことなんだ?
   なんで酒が病気を吹っ飛ばすんだ」

素朴な疑問だった。

10 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:13:50.51 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「ふう、やれやれ。毎日本ばかり読んでるくせにそんなことも知らんのかお」

珍しく造詣の深さで逆転勝利できる機会なので、内藤は飛び切りいやらしい言い方をする。

('A`)「うるせー。餅は餅屋だろうが。知ってるならさっさと教えろよ」

( ^ω^)「そうかっかするなお。偶には優越感に浸らせてくれお。
      太古から戦場に赴く武将達の間では、酒は百薬の長、と言われてたんだお」

('A`)「なんでぇ、じゃあ母ァに飲ませたらよかったな」

( ^ω^)「さすがにこのお酒じゃ強すぎるお。酔いが回って頭痛が悪化するだけだと思うお」

('A`)「それじゃあ、あくまで俗説か」

( ^ω^)「とは限らないお。適量を守れば寿命が延びるとも言われているお」

('A`)「へえ」

自分から質問しておきながら、大して興味を引かれていないふうである。

('A`)「しかしまあ、酔いね、酔い――内藤」

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:14:00.64 ID:HvNvOlpDO
好きな感じ支援

12 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:18:00.45 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「その話で思い出したんだがよ、お前はこんな人外魔境の地に住んでるから無縁だろうが」

(;^ω^)「そこまで酷くないお」

('A`)「まあそれはともかく。この季節になると、夜中悪酔いした阿呆どもが騒いで喧しいんだよ」

( ^ω^)「なんだ愚痴かお。ドクオは町の真ん中に住んでるんだから天命と思って諦めるお」

じめじめした夏は盃が進む。
夏の夜の空気には不思議な色気がある。じっとりと肌に纏わりつき、人々の心を昂らせる。
そんな空気が張った中で、満点の星空を望みながら飲むのもまた乙である。

('A`)「仕方ないだろ、うるせェもんはうるせェんだから。
   お前は酒に強いからまず大丈夫だろうとは思うが、繁華街で一杯引っ掛ける時は飲み過ぎんなよ。
   このところそのせいで眠れてないからな。飲むなら自宅で頼む」

( ^ω^)(寝てないのは酔っ払いのせいだけじゃないくせに)

('A`)「何か言ったか?」

( ^ω^)「別に何もー?」

わざと恍けたふりをする。手団扇で首のあたりを扇ぐ。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:20:40.96 ID:QLfqws9a0
支援

14 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:23:10.05 ID:tnWw9rMV0
('A`)「……ふん、まあ、よしとするか」

ドクオは鼻頭を二本の指で抓むようにして揉む。

('A`)「それより内藤、商売に出かけないでいいのか。もうじき午ノ刻だぜ」

( ^ω^)「おっもうそんな時刻になるのかお」

そういえば朝飯を摂っていない。もっとも食欲など暑さで小指の垢ほども湧いていないのだが。

( ^ω^)「そろそろ裏町にまで行かないと……」

('A`)「裏町ってェと……ああ、ぼろい長屋がずらずら並んでいるとこか。
   もしかして、クーの家にも寄っていくのか?」

( ^ω^)「そうだお」

('A`)「なんだとッ」

ドクオは過剰な反応を取った。大袈裟過ぎて、上方の歌舞伎役者じみていた。

('A`)「全くよう、先に言えよ、そういうことは。クーにどんな薬を売るんだ」

15 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:25:58.97 ID:tnWw9rMV0
(;^ω^)「そいつはクーさんの沽券に関わる話だから喋れんお」

('A`)「そう生真面目なこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?
   クーの症状を教えてくれよ。俺も何かできることがあるかも知れねェしさ」

ドクオは長屋の娘クーに惚れているのだ。
随分と前から内藤はそのことに勘付いていたし、ドクオも恋心を隠すような真似は一切しなかった。
ただ恋心と呼ぶよりは下心に近いために、友人としての立場からすれば律儀に答えるのも憚られる。

( ^ω^)「……水様便」

ぼそりと呟く。

('A`)「今なんつった? もう一回頼む」

( ^ω^)「……端的に述べると、下痢だお、下痢」

(;'A`)「なっ、なんと!」

ドクオは瞬間的に身を反らした。そして急速に落ち着いて、ぶつくさと呪詛にも似た独り言を唱え始めた。

('A`)「そうか……成程……クーは今も厠で踏ん張っているかも分からぬのだな……。
   あの寡黙で冷静なクーが……そうか……」

鼻息が荒い。興奮している。不気味ですらある。
平々凡々な庶民たる内藤には、いいところのお坊ちゃんの性癖というものはどうやっても理解できない。

16 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:28:46.83 ID:tnWw9rMV0
('A`)「……よし、よし、分かった。いやあ、それが聞けただけでもここに足を運んだ甲斐があったな」

( ^ω^)(この下衆野郎、僕ん家に来た当初の目的忘れてんじゃないかお)

元々は自分への献辞だったはずである。

( ^ω^)「変態」

「うっせー表六玉。――そいじゃ、俺はそろそろ戻るとするぜ。親父に金を借りなきゃならねェからな」

( ^ω^)「また遊楽費かお。返す当てはあるのかお」

('A`)「ないね」

何処から湧き起こっているのか不明な自信を満々にしてドクオは言う。最早内藤には応じる気力すらない。

('A`)「じゃあな、旨い酒を味わってくれ」

手を振ってドクオと別れた。
後ろ姿が遠くなるのを確認してから、内藤は本日の予定を頭の中で一から整頓する。

( ^ω^)「さて――」

今日の行き先は、クーを始めとした顔見知りの顧客を多く抱える裏町と、そして――。

和蘭の少女が住まう館。

17 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:33:43.49 ID:tnWw9rMV0



街路を抜けると、あとは田園風景の広がる坂道が長たらしく伸びているだけである。
風が吹くたびに垂直に伸びた稲が揺れ、黄緑色の波が立つ。
ざあざあ鳴る潮騒ではなく、さらさらと囁く穏やかな音色が、あちらこちらから聴こえてくる。

(;^ω^)「ぐぬおおお、きついお……地面が水面みたいにふにゃふにゃに見えるお……」

夏の日差しは容赦がない。
ツンの家に辿り着く前に、全身の水分という水分が蒸発し、自分は木乃伊になってしまうのではないか――。
そんな錯誤を覚えるほどだ。

( ^ω^)「そういや、木乃伊も薬にできたんだっけ……」

暑さに参っているからか、くだらぬことばかり浮かぶ。

これでもまだ盛夏ではないと巷では言われている。内藤はその無慈悲な事実に幻滅している。

裏路地の長屋から数えて一刻と半ほど歩いた。

( ^ω^)「ごめーんくださーいおー」

屋敷に着くなり、呼び鈴は無視し、力を込めて扉を叩く。
「叩く」というより殆ど「殴る」に近い。金属の硬い打撃音が腹底に響く。
応対したのはクックルであった。

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:35:36.47 ID:fGKsGd44P
しえん

19 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:37:16.21 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「オマエカ。 コンドハ ナニヲ ヤリニキタ」

相変わらずの片言でクックルは行商人に問う。

それにつけてもこの家屋の内部は風の吹き抜けが芳しくない。
扉が開いた瞬間、湯気かと紛うほどの、湿り気を含んだ篭った熱気がむわりと内藤の顔に被さった。

( ^ω^)「いやあ、今日はちょっと、夏におすすめの薬を持って参りましたお。
      今日はとりわけ暑いものだから、相当難儀だろうと思って、このお宅に限らず巡回してる途中でして。
      僕なんて今朝から暑さにやられてそれはもう酷いことになってたお。
      ここに来る前に伺った先じゃ、避暑の名手のはずの猫でさえ人間みたいな体勢でへばってたお」

世間話を織り込む。常套手段である。

( ゚∋゚)「ソウカ? ソンナニ アツイトモ オモエンガ」

( ^ω^)「……その格好を見ればなんとなく反応は分かってたお」

クックルはこの日も黒い外套姿である。他に衣装を持っておらぬのか。

( ^ω^)「とはいえ! あって困るものは一品たりともこの籠には入れてきてないと自負しているお!
      食欲減衰や眩暈貧血に効く薬、おひとつどうかお?」

20 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:39:33.57 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「ウーム」

腕組みし、上膊に人差し指でとんとんと小気味よい調子を刻みながら、クックルは思案する。

( ゚∋゚)「オジョウニモ イケン キカナイトナ」

( ^ω^)「おっ? そういえば、今日はツンはどうしたのかお?」

( ゚∋゚)「イルニハ イルガ デタクナイト イイハッテイタ」

(;^ω^)「はあ。やっぱり邪魔者に思われてるのかお」

内藤は幾分か落ち込む。

( ゚∋゚)「イヤ ソウデモナイゾ。 オマエノ クスリニハ オジョウモ セワニ ナッテル。
     ジツハ オトトイ オジョウガ ツメタイ トコロテンヲ タベスギテ ハラ クダシテナ――」

ξ#゚听)ξ「そのことばらすのは禁止よ、禁止!」

俄かに大声が反響した。
出所を探すと、二階へと続く階段の陰から、屋敷の姫がほんのり赤く染まった顔を覗かせている。

( ゚∋゚)「ドウシタ オジョウ ハズカシカッタカ」

ξ゚听)ξ「当たり前でしょ! 乙女の内緒よ!」

21 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:41:36.58 ID:tnWw9rMV0
どうやら二人の会話にこそりと聞き耳を立てていたらしく、
人に知られたくのない秘密事の露見を受けて慌てて飛び出したようである。

クックルの元にずかずかと歩み寄り猛抗議する。
木鼠のように両頬を膨らませ剥れている。
服はやはり縮緬である。先日訪ねた時とは帯の色だけが微妙に異なっていた。

( ^ω^)「ぷっ、乙女って」

ξ゚听)ξ「何よ、私が乙女って言っちゃいけないの?」

( ^ω^)「いやいやそんなことは」

ξ゚听)ξ「嘘ね! 顔が笑ってるわ」

(;^ω^)(これが普通の状態なんだけど)

内藤は苦い顔をする。
その表情すらも破顔しているように映る。
生まれつきだから仕様がない。文句はこの顔に産んだ母親に言ってほしい。

( ^ω^)「ううん?」

ここでようやく認識した。今日は端からクックルの背後に隠れようとはしておらぬ。

22 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:45:13.67 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)(慣れたのかお。何事にも慣れは肝心だお)

( ゚∋゚)「クスリヤ ソレハ ソウトシテ キョウモ イチョウニ ヨイ クスリヲ タノミタイノダガ」

( ^ω^)「おっ? 確かつい先日たくさん売ったはずだお?」

( ゚∋゚)「ソレガダ トメハ シタンダガ オジョウト クレバ クスリハ タクサン ノンダホウガ キク
     ナドト ジツニ アタマノ ヨロシクナイ コトヲ イッテ」

その背後でツンは何か言いたげにしているが、巧い罵倒の文句が思いつかないらしい。

(;^ω^)「……あるだけ飲んだのかお?」

( ゚∋゚)「アア」

内藤は呆れる。常識知らずにも程があるだろうと辟易さえする。

( ゚∋゚)「マスマス ヒドイコトニ ナッタ」

ξ#゚听)ξ「アホクックル!」

ツンが声を張り上げる。直情的な表現しか見つからなかったようである。

23 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:48:27.02 ID:tnWw9rMV0
ξ゚听)ξ「もう知らないっ!」

( ^ω^)「知らないって言ってるからこのまま話を続けてくれお」

( ゚∋゚)「ヨシ」

ξ;゚听)ξ「構ってよ!」

内藤にも段々とツンの扱い方が分かってきた。
前回の別れ際の小馬鹿にしたような態度から得た傾向と対策が大いに役に立っている。
この手合いの童とはまともにやりあってはならぬ。適当に泳がせておくのがいい。そのうち折れて従順になる。
側近の大人から落とせば早い。

それがツン殺しへの近道。

(;^ω^)「……」

なんだか内藤は厭な気分になった。

たとえツンとクックルの二人を舌先で丸め込み懐柔したところで、
結局は幼い少女を殺害するなどという、人の道を踏み外した、怖気のする終焉にしかなり得ぬのだ。
顛末は始まる前に決まっている。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:49:31.84 ID:9E+S/SAmO
しえんぬ

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 20:52:28.96 ID:fGKsGd44P
しえん

26 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:54:04.85 ID:tnWw9rMV0
もっとも自分がツンの屋敷で行っていることには普段の仕事内容とそう違いがあるわけではない。
嘘を吐くのは苦手だ。隠すことで精一杯である。

( ゚∋゚)「――デナ クスリヤ」

(;^ω^)「なっ、何かお?」

ぼうっとしていた。急いで内藤は思考の回転を中断する。

( ^ω^)「ああ話の途中だったお。んーと……そう、ツンは薬を全部飲んでどうなったんだお」

( ゚∋゚)「ソレガダ アンノジョウト イウベキカ オモイキリ ギャクコウカ ダッタ。
     ケッコウガ ヨク ナリスギタ ミタイダナ」

(;^ω^)「やっぱり」

薬の専門家である内藤からすれば薬物の過剰摂取など言語道断である。
是非とも忠告をしてやりたいところだったが、また臍を曲げられても弱るので、今回は見逃すことにする。

( ゚∋゚)「オジョウハ タトエバ コシヲ カガメタリ タチアガッタリ ダンサヲ コエタリ スルタビニ
     ハラガ ギュリリト オト タテテ クルシンデオッタ」

(;^ω^)「うへあ、そりゃあ無残なことになってそうだお」

27 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 20:58:00.96 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「ウム イマハ ダイブ オチツイテテハ イルガ
     オジョウガ ヒル ヨル ナンドモ ニカイト ベンジョヲ イキキスルノハ ソウゼツダッタ」

ξ゚听)ξ「だからなんで平気でばらすのよっ!」

( ゚∋゚)「ベツニ バラシタ トコロデ オジョウガ シニタエタリハ シナイノダロウ?」

ξ;゚听)ξ「出し抜けに物騒なことを言うわね。そーいう問題と違くて」

二の句が継げない。何の筋立ても何の打開案もなく話し始めてしまったらしい。
そんなだから、あえて、思い巡らすことを放棄する。

ξ゚听)ξ「……もうダメ、もう怒った。クックルは今日の夜はおかゆだけね。お塩入ってないやつ」

(;゚∋゚)「ソレダケハ ゴカンベン」

巨体を縮めてツンの機嫌を伺う。

( ゚∋゚)「トイウカ ソノカユハ ハラヲ コワシタ オジョウノ タメニ ツクッタ モノジャ」

ξ゚听)ξ「また要らないこと言うんだから!」

( ^ω^)「ぷっ」

傍観する薬売りは、珍奇な絵面にまた破裂音を唇の隙間から漏らした。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:00:21.38 ID:fGKsGd44P
しえん

29 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:01:32.69 ID:tnWw9rMV0
前回よりも安寧である。壁は順調に壊されつつある。
なぜか。単純な話だ。
この場は所詮、小さな子供と、大きな子供と、そして、中位の子供がいるだけに過ぎないのだ。

そう思った。

( ^ω^)(ただ……内心じゃお互い何を考えてるか分からんお)

まず己がそうなのである。相手も何かしら意想だにせぬことを腹に秘めているかも知れぬ。

内藤は籠から五、六包ほど薬を取り出す。

( ^ω^)「じゃあ、とりあえず、健胃剤と整腸剤を渡しておくお。これで大分荒れた内臓が整うと思うお」

( ゚∋゚)「オオ デハ マトメテ コウニュウ シヨウ」

代金を払われる。手の平に広がった小銭がやけに冷たく感じる。

( ^ω^)「ただこの生薬、茴香や千振を使ってるから相当苦いお。ツンに飲めるのかお」

ξ;゚听)ξ「こっ……子供扱いしないでくれる? 
       飲めるに決まってるわ。の、飲める。きっと飲める!」

などと強がっているが、言葉の節々を拾えば、苦味のある物を不得手にしていることは明らかに解る。

30 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:05:44.33 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「そいじゃ、お渡しするおー」

ξ゚听)ξ「ふんっ」

受け取るだけ受け取って、ツンはぷいっと顔を背ける。
内藤は頭を掻いた。小児を相手する町医者の労苦が分かるというものである。

( ^ω^)(……)

――内藤は、こうして渡す薬に毒を盛れば楽に殺せるではないかと、少しばかり考えたことがある。

例示すれば、馬銭は生薬としても用いられるが処方次第では劇薬にもなる。
晩夏から秋にかけて咲く彼岸花は神経系の麻痺を引き起こす。
極めつけは鳥兜。この植物から取れる烏頭は、一応強心剤にも使うが、主な使途は暗殺用の毒物である。

死に至らしめる物など有り触れているのだ。

だがそれは明らかに愚策である。
両者同時に服用し両者同時に発作を起こさぬ限り、どちらかは必ず異変に感づく。
その場合真っ先に疑われるのは薬を売った自分であろう。

それはいけない。そうなれば全てが台無しに終わる。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:08:55.02 ID:fGKsGd44P
しえん

32 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:10:37.71 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「トキニ クスリヤ。 オレ オマエノ ヤクソウニ カンスル チシキ モット キキタイノダガ」

クックルがそう申し出ると、ツンは「そんなものは億劫だ」とでも言いたげな、露骨に嫌そうな顔をした。

ξ゚听)ξ「ダメダメ、草のお話なんか聞いてもきっとつまんないわよ。
      どうしてもって言うんなら私のいないところでしてちょうだい」

( ゚∋゚)「ジャア ホカノ ハナシハ ドウダ?」

人差し指を立ててクックルが提案する。指一本がツンの頭の縦幅に迫るほどの長さがある。

( ^ω^)「他の話ね……備富町の今の情勢を語るのはどうかお?」

( ゚∋゚)「ソレハ イイ。 オレハ ツキニ イッカイカ ニカイ ヨコチョウノ タナマデ イクカラ マダ マシダガ
     オジョウハ ホトンド ヤシキカラ デナイ カラナ」

ξ゚听)ξ「失礼ね。朝は散歩ぐらいするわよ。おうちを壁沿いに一回りくらい」

(;^ω^)(それは散歩の範疇なのかお)

( ゚∋゚)「ドノミチ マチノ ヨウスヤ ハヤリヤ ヒトノコト シラナイダロウ」

ξ゚听)ξ「うう……それはそうだけど、別に興味ないからいいのっ!」

果たして心よりの本音だろうか。いやそんなはずがないだろう。
多感な年頃の女の子が世の移り変わりに無頓着だというのも、甚だ不健康な話である。

33 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:14:20.72 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)(まっ、今日はいいかお)

虚勢かも知れないとはいえ、不必要だと宣言している者に無理に語り聞かせたとしても、逆効果にしかならぬ。
ただ不快感を強めるだけである。
親睦を深め溝を埋めねばならないというのに、そうなってしまっては本末転倒である。

( ^ω^)(その手の話は、本人の口から望まれた時にすればいいお)

内藤は、そう胸の裡で決めた。

( ^ω^)「んじゃ……薬も買ってもらったことだし、僕はこの辺で失礼させてもらうお」

( ゚∋゚)「モウカ。 ワザワザ コンナ ハズレニマデ キテルンダカラ ユックリ シテイケバ イイダロウニ」

( ^ω^)「いやいや、あまり厄介になるのも悪いし、何より帰りが遅くなると家に着く前に日が暮れるお」

( ゚∋゚)「ダガ チャグライナラ ダセルゾ」

( ^ω^)「今日はまだ『ささえ』に水が残ってるから平気だお」

言って、首に提げた竹の水筒を振る。

( ^ω^)(これでいいんだお。あんまりせっかちに働きかけても、余裕がなくなるだけだお)

内藤はギコの指示を頑なに遵守している。ゆっくりゆっくり、氷を融かせ――と。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:16:20.95 ID:fGKsGd44P
しえん

35 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:17:37.17 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「ツンもしばらくは安静にしておくんだお」

ξ゚听)ξ「……そのぐらい、分かってるわよ」

また「べえ」と舌を出して、上階へと一目散に駆け上がり、内藤を煩わさせる。
しかしながら、揶揄というよりは拗ねているだけに見えた。
ひょっとすると未だ腹痛に苛まれているのかも知れない。
以前にも増して徹頭徹尾つんけんとしていたのも、もしやその痛みが所以かも分からぬ。

内藤はある案を閃く。

( ^ω^)「……クックル」

( ゚∋゚)「ナンダ?」

( ^ω^)「今日のお誘いを断った代わりと言っちゃなんだけど、明日、ここに来させてもらうお」

クックルは、はて、と小首を左に傾けた。下顎のがっしりした面に相応しくない、妙に繊細な仕草である。

( ゚∋゚)「ン? ドウシテダ?」

( ^ω^)「そちらのお嬢さんにやってあげることが出来たんだお。
      その準備を済ませたら、明日の昼過ぎにまたこの屋敷に参上させてもらうお」

そういう手筈になった。

36 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:21:08.91 ID:tnWw9rMV0



明くる日のこと。
内藤は公約通り、竹の籠でも薬屋行李でもなく、小さな風呂敷包を背負ってツンの屋敷に現れた。
まだ陽が高い刻の話である。

( ゚∋゚)「ヨシ ハイレ」

中に通される。
横長の小部屋を抜け、八畳ほどの応接間に入る。
床には毛羽の立った緞通が敷かれているから、草履を脱げる。内藤にはそれが非常にありがたく思える。
ツンも居る。大人しく座っているが、時折宙をぼんやり見るなど手持無沙汰なようである。

客間の中央に腰を下ろしたがどうにも収まりが悪い。
襖がないからだ。部屋を仕切るものがないと落ち着かない。四方から観測されているような心持ちになる。

( ゚∋゚)「サテ クスリヤ。 ワザワザ ヒヲ アラタメテ イッタイ ナニヲ スルト イウノダ?」

内藤は得意満面に答える。

( ^ω^)「今日は、特効薬を処方しに来ましたお」

包を解いた。その中身は数種類の乾燥させた植物と――鉄製の薬研であった。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:22:05.41 ID:fGKsGd44P
しえん

38 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:23:56.42 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「オレ コレ オロシダナデ ミタコト アルゾ。 ナマエハ シランガ」

( ^ω^)「これは薬研だお」

ξ゚听)ξ「ヤゲン?」

ツンはよく解らぬといった顔をする。

ξ゚听)ξ「なんか舟みたい」

( ^ω^)「だお? この舟の窪みに薬効植物を入れて、こっちの車輪で粉々にするんだお」

ξ゚听)ξ「ヤゲン、ヤゲンね。へえ、ヤゲン」

何度か小声で繰り返す。響きが気に入ったようである。

( ^ω^)「これでツンのために特製の六君子湯を作らせてもらうお」

( ゚∋゚)「ソノ リックンシトウ トヤラハ ナンダ」

( ^ω^)「掻い摘んで説明すると、すっごい胃腸薬だお」

内藤は薬種問屋で既存品を仕入れるだけに飽き足らず、独自に漢方薬を製造している。
早い話が凝り性なのである。

39 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:28:56.74 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)「薬学書の『万病回春』から学んだんだけど、こいつは半端じゃないお。
      体の強くない人にも効果覿面だし、その上比較的甘めで飲みやすいからツンにぴったりだお」

( ゚∋゚)「ソレハ タスカル。 オジョウモ ヨロコブ ダロウ」

ξ゚听)ξ「べっ、別にそんな」

照れ隠しなのか判らぬが、ツンは二つに括った橙髪を指先でくるくると巻いた。
そのいじらしい挙動を脇目に眺めながら、内藤は作業に取り掛かる。

六君子湯は、大棗、人参、茯苓、甘草、陣皮、生姜、蒼朮、半夏の八種類から組成される。
生姜や陣皮には健胃効果、人参には血行促進、茯苓には鎮静作用など、それぞれに明確な薬効がある。
それらを小舟型の器に投じ、車軸を固く握って前後に転がし、粉砕していく。

( ゚∋゚)「イマ ハッシュホド イレテイタガ ナラバ ハックンシトウニ ナラナイカ」

( ^ω^)「『万病回春』の著者が生まれた中国では、大棗と生姜は特段薬扱いされてなかったんだお。
      一般に食べ物として用いられることのほうが主だったし、それに大抵の脾胃剤に入っていたから、
      改めて名前を処方箋に記されてはいなかったんだお」

ごりごりと車輪で草木を押し潰しながら、ふと挙がったクックルの質疑に応答する。
粗方粉末状になったところで内藤は面を上げる。

( ^ω^)「さあ、ここからが僕の腕の見せ所だお。
      ……クックル、この前畑で採っていた丁子は保存してあるかお?」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:29:03.81 ID:fGKsGd44P
しえん

41 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:31:26.64 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「アア イクツカ アルガ」

( ^ω^)「その中で十分に乾いている物があったら持ってきてほしいお」

( ゚∋゚)「ナニニ ツカウキダ?」

( ^ω^)「それは後のお楽しみということで」

( ゚∋゚)「――ワカッタ。 オジョウ ツイテ キテクレ」

そう言い残すとクックルはツンを率いて一時退室した。
それなりの信用は得ていたと踏んでいたが、依然として自分の目の届かぬ所にツンを置くつもりはないらしい。

暫く座して待つ。ややあってからクックルが戻ってきた。
用事に付き合わされたツンは若干不満そうな表情を浮かべている。

( ゚∋゚)「モッテ キタゾ」

( ^ω^)「御苦労さまだお」

クックルから乾燥した丁子の束を受け渡される。
その中からまだ花が咲いてないものを数本ばかり発見し、内藤は目論見通りだと欣喜雀躍する。

42 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:36:28.88 ID:tnWw9rMV0
蕾をひとつ摘み取る。そしてそれを見せながら、ツンとクックルに解説する。

( ^ω^)「六君子湯は糖の多い半夏や甘草、大棗を使ってるから、
      苦い薬が嫌いなツンにも大丈夫なのは、先程伝えた通りだお」

ξ゚听)ξ「別に苦いのなんて嫌いじゃないもん!」

ツンの反駁があったが、気に留めずに続けることにする。

( ^ω^)「でもその分鼻につく臭いがあるお。そこでこれ、丁子の蕾を入れるお」

内藤は丁子の小さな蕾を、薬研の中にぽいと投げ入れた。
そしてまた擂り潰す作業に復帰する。

( ^ω^)「丁子にはとても特徴的な芳香があるから、嫌な臭いを消してくれるお。
      しかも丁子は陣皮の香りと相性がいいんだお。
      もちろん入れ過ぎると丁子の刺激的な部分ばかり強調されてしまうから、程々にしなくちゃいけないけど」

そこまでで結ぶと内藤は製薬に専念するために無言になった。
ツンも多少興味が出てきたようで、生薬作りに没頭する内藤の手つきを見守っている。

硝子窓だから、閉め切っても日陰にはならない。風も全く流転しない。
それでも――外の耐え難い暑気よりは、理屈は解らぬが、幾分穏やかに感じた。

43 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:39:26.33 ID:tnWw9rMV0
(;^ω^)「――よし、完成したお!」

奮闘の末、出来あがった細粉を持参した和紙に包む。
額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、クックルに出来あがった薬を渡す。

( ^ω^)「ひとつ素材を追加したから、さしずめ七君子湯といったところかお。
      これを四半刻ほど煮て飲ませるといいお。漢方の基本は煎じることだお」

( ゚∋゚)「アリガタイ。 ワザワザ イチカラ ヤッテモラッテ スマンナ」

( ^ω^)「いえいえ、このぐらい、お安い御用ですお」

内藤はツンを横目に見た。ちょこんと正座し、両手の指同士を絡ませてもじもじとしている。
どうにも素直に感謝の言を述べるのが気恥ずかしいらしい。

( ゚∋゚)「ダイキンハ イクラダ?」

( ^ω^)「いやあお金は要らないお。これは僕のお節介に過ぎないお」

( ゚∋゚)「イイノカ? シカシダナ――」

( ^ω^)「前にも言ったお? 僕の商売の信条は、損して得とれ、だって」

応じる内藤は所得顔である。

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:40:35.64 ID:fGKsGd44P
しえん

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:42:13.53 ID:9E+S/SAmO
支援

46 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:44:06.86 ID:tnWw9rMV0
( ゚∋゚)「ムウ ソウカ」

一瞬考え込み、

( ゚∋゚)「イヤイヤ コレハ ヤラレタナ。 コンゴモ ヒイキニ セネバ ナランデハ ナイカ」

クックルの厳めしい面が綻んだ。内藤も微笑を返した。

( ^ω^)(こちらとしてもありがたい話だったお)

内藤からすれば一挙両得である。
信頼関係を深められた上に、次回以降来訪する口実が、ごく安全に、ごく自然に、ごく公明に出来た。

(;^ω^)(んんっ、だけどよく考えたらいつもと変わらんような気がしてきたお)

特効薬を処するために常連客の元に奔走するなど、この穏和な薬売りには日常茶飯事だった。
趣味と実益を兼ねているのもあるが、病の苦しみから救いたいという気持ちが、何よりも、誰よりも強い。

( ^ω^)「今日は朝一番で来たから、これから町中のお客を回らないといけないお」

( ゚∋゚)「ソウナノカ。 デハ キヲツケテ カエレ」

クックルは立ち上がらない。ツンのすぐ隣で、根を床絨毯に張ったままである。

47 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:48:35.35 ID:tnWw9rMV0
( ^ω^)(おっ? 今日は見送りについてこないのかお?)

監視の目が僅かながら緩んだのか――。
そんなことを考慮しながら細く伸びた廊下を渡り、洋館を後にしようとすると、

ξ゚听)ξ「……ないとー!」

去り際に呼び止められた。振り向くとツンが後ろ手を組んで所在なさげに佇んでいる。

( ^ω^)「何かお」

どうせまた自分をからかいに舌でも出しに来たかと思ったが、どうやらそういった雰囲気ではない。
白らかな顔が上気している。
ツンは鈴を張ったような大きな瞳で、内藤を上目遣いに見つめると、

ξ*゚听)ξ「あ、ありがと」

それだけ囁き声で言って、やはり逃げるような駆け足で二階に上がっていった。

内藤は柄にもなく照れ臭くなる。

( ^ω^)(なんだお……素直なところもあるんじゃないかお)

けれども最後には――自分はこの少女を殺さなくてはならない。
消し去れぬその事実が深々と胸に突き刺さる。

48 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:50:02.56 ID:tnWw9rMV0
(;^ω^)「……」

内藤は複雑な気分になった。

もし普通に、なんの打算もなくこの屋敷の人間と出会えていたなら、もっと良好な関係を築けたように思う。

少なくとも内藤は両名のことが嫌いではない。
用心棒のクックルは外見こそおっかなく不躾だが、為人は見た目とは裏腹に温厚篤実であり、
和蘭の少女ツンは突っ撥ねてはいるが愛らしい一面もある。

然ればこそ余計にギコの動機が気に掛かる。

( ^ω^)(一体、どこにギコさんを激怒させる点があるんだお……)

皆目である。信念が微かに揺らぐ。

けれど――。

迷いに気を取られてはいけない。憐憫は躊躇を生むだけであり、躊躇は邪魔になるだけである。
研いでいた毒牙が抜ければツンの命は奪えなくなる。

その未来はあってはならぬ。

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:50:52.65 ID:rI2FBVl/0
支援

50 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 21:53:31.61 ID:tnWw9rMV0
今日はここまで
また次回


※業務連絡
1話の>>24に誤字がありました
×いるのが必然のだ → ○いるのが必然なのだ です
お手数ですがまとめ様修正お願いします

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 21:56:52.76 ID:5A9VB593O






52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:01:25.17 ID:HFSpW1Pz0
乙!面白かった

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:04:56.01 ID:1xEhFozZ0
せつねえな

54 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/04(日) 22:07:31.96 ID:tnWw9rMV0
あとこれ完結させたら霊探偵続き書くかもしれんです

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:22:51.16 ID:VcEdnFIW0
シエンタ

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:24:06.72 ID:VcEdnFIW0
乙でした

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:33:44.68 ID:u3woKgP90


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:34:59.89 ID:Xu+QrxXMO
終わってたか


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/04(日) 22:41:31.27 ID:9E+S/SAmO
おつん

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