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( ^ω^)が交換殺人をしてしまうようです

1 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:00:37.84 ID:pyRuUu9v0
おひさ

まったりやります

2 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:02:03.66 ID:pyRuUu9v0
1.物語ノ壌


蒸した夏の事件である。

(,,゚Д゚)「殺してほしい女がいる」

( ^ω^)「は?」

(,,゚Д゚)「貴殿に殺してほしい女がいる」

内藤は大層驚いた。

(;^ω^)「今、何と――」

焦点の碌に定まらぬ目のままギコを見返した。
ギコの顔に表情はない。
しかし奇妙なことに、微動だにせぬ無表情から唯一発されている情念を、内藤はひしと感じ取れていた。

憎悪である。

(,,゚Д゚)「だから、貴殿に殺してもらいたい女がいると言ったのだ」

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:02:12.01 ID:cGED+RUq0
わぁい^ ^

4 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:03:50.69 ID:pyRuUu9v0
あまりにも唐突なので内藤は動揺を隠せなかった。
なにしろギコが内藤の屋敷を訪れてから、時間にしてまだ小半刻にも、そのまた四分の一にも達していない。

それで、これである。

内藤はひどく困った。額の辺りに汗が浮いた。

(;^ω^)(急に来て人を殺せだと? しかも初対面で?
      冗談ぶっこいてんじゃないお……。頭いかれてんのかお)

そもそも初顔の客が来ること自体内藤家にとっては稀なのである。

内藤は町内を練り歩く薬売りである。

母は早くに死に、父は内藤が初冠を迎える前に病で亡くなったから、この小さな平屋には内藤一人しか住んでいない。
その屋敷の立地もここ備富町の中心からは少々ずれている。
だから内藤の家には時偶知人が訪ねてくることがあるだけで、見知らぬ人間が立ち寄ることなど殆どない。

そこに――。

(,,゚Д゚)「御免」

突如現れた来客がギコであった。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:04:00.01 ID:yrhNwUAc0
おもしろい

6 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:06:32.14 ID:pyRuUu9v0
内藤が遅い昼寝でもしようかと企んでいたところに戸を叩く音があり、開けると着流し姿の青年が立っていた。
帯刀している。武士である。

(,,゚Д゚)「やつがれはギコという者。見ての通りのしがない浪人で、武者修行のために全国行脚の旅をしている。
    ……と言えば聞こえはいいが、実態は地を代え宿を代え当てもなく放浪しているというのが正しいな。
    実は先日、内藤殿がこの土地で暮らしていると聞いたものでして。
    いやしかし今日は殊更に暑いですな。着物が汗で張りついてすこぶる気持ちが悪い」

若侍は木戸が開くなり、主人の内藤に構わずべらべらと長広舌を振るった。
身勝手に話しているだけだが意外にも耳触りはそれほど悪くない。言葉に馴染みがある。

(,,゚Д゚)「こちらに参る道中でも、芥子頭の童どもが涼をとるために川辺で戯れておりましたわ。
    あの髪なら安全です。
    万が一溺れても、頂に残った髪の毛を掴んで、こう、ぐいっと引っ張れば、楽に助けられましょうから。
    それにしても、本当に暑い――」

五倍子染めの着流しの襟口から汗ばんだ浅黒い肌が覗いた。

( ^ω^)(喋りまくってる割に内容なさすぎだお)

適当に相槌を打っていた内藤であったが、どうにも本題を隠しているように聞こえてならない。
焦れた内藤は水を差す。

( ^ω^)「あの……何か僕に御用ですかお?」

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:08:07.18 ID:+h2sNsUw0
支援

8 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:08:59.05 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「うむ――そうなのだ」

ギコの口調がふと鋭くなった。

(,,゚Д゚)「そのためにこのお屋敷に伺わせていただいた。
    初顔で恐縮だが、ちょいと折り入って貴殿に相談したいことがある――それも内密にだ。
    頼めるか」

( ^ω^)「相談? この僕に?」

初めは「はて」と訝しんだが、虚を衝いて斬りかかるわけでもなく、危害を加えそうな気配もなかったので
内藤はとりわけ不審に思わず素直にギコを屋内に受け入れた。
第一強盗目的ならば夜半寝静まった頃に襲うだろう。

( ^ω^)(なんとまぁ、珍しいこともあるもんだお)

内藤という人間は根が愚直なまでに純である。元来人を疑うことを知らない。

( ^ω^)「こんなところで立ち話もなんですから、どうぞどうぞ」

履物を脱いで床上に上がるよう誘ったが、ギコはその呼びかけを拒み、
仁王立ちのまま玄関をくぐってすぐの土間で話を始めた。
ただひとつだけ、「窓を閉めてほしい」という要望があったので、内藤は特に気にも留めず従った。

9 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:10:54.56 ID:pyRuUu9v0



そこで切り出された件が先の、

「殺してほしい女がいる」

である。


 

10 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:12:52.19 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「えぇつまり、ギコさんは僕に、僕が……僕の手で、とある女性を殺せと、そういうことなのかお」

(,,゚Д゚)「そうだ。貴殿にしか頼めぬことなのだ。
    無論謝礼は弾む。条件は出来得る限り飲む。ただ、要求本体だけは譲歩するつもりはない」

このギコという男は黙していれば天下に比する者なしと称えたくなるほどの甚く整った形貌をしているが、
その腹底に抱えているモノは得体が知れぬ。
大きく見開かれた双眸も内藤の目ではなく心の裡を覗いているのかも分からぬ。

暑い。風が吹かない。

内藤は未だ狼狽している。

( ^ω^)「――けど僕は見ての通りの、しがない一男子に過ぎないお。
      戸口の籠を見たお? 僕は亡き父の後を継いで歩きの薬売りをやってる行商人なんだお。
      そんな奴に殺しの依頼なんかしてどうするお?
      だから……そんな恐ろしいことはとてもじゃないができないお。物騒な」

(,,゚Д゚)「嘘を言うでない! 知っておるぞ内藤。
    今でこそ呑気で無害な町民面をしているが、貴殿も武士の端くれであることを!」

(;^ω^)「ぬ……」

内藤は唾を呑んだ。
やけに粘ついていて嚥下しきるのに労を要した。

11 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:14:59.30 ID:pyRuUu9v0
確かに、内藤は武士の家に生まれた。それもただ一人の子だ。腐っても士の血を引いている。
しかし内藤は町の誰にも身分を明かしたことがない。
いやそもそも、生まれてこのかた腰に刀を差したこともない。

内藤は――内藤家は、とうの昔に武士として生きることを放棄していた。

五歳の冬、内藤の父シャキンは最愛の妻の死を契機に柔束藩を抜け、遠い備富の地に身を移した。
幼き息子を連れての討手からの逃避行は困難を極めた。

「臣下の分際で主を捨てるか!」

「追えや、追え追え!」

眠れぬ日々が続いた。

走る走る。また走る。
気づかれぬよう夜走る。
裏をかいて昼走る。
塒をとっかえひっかえしては、目的の場所へひた走る。

備富町に辿り着いた頃には血生臭い争いごとに嫌気がさしていた。

だから――主君を持たぬどころか、武士という身分も捨て、一人の町民として根差すことを選んだ。
一人息子に剣術を教えもしなかった。そんなものは新しい生活に必要なかった。

12 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:18:01.99 ID:pyRuUu9v0
だがなぜ、ギコは内藤の正体をこの場に来る以前に明かしていたのか。
自ら告げぬ限り知れることのない秘密である。

あるいは――藩に仕えていた当時の父を知っていたかだ。

(;^ω^)(んん……でも父ちゃんと親交があったようには見えないお……僕とそう歳が変わらなく見えるお)

ギコは若い。どれだけ多く見積もっても三十路は超えていないだろう。
内藤は数週間前に二十歳を迎えたばかりだから、それよりも少し上か、精々その程度と推し測られる。

戸も窓も閉め切っているから、屋敷の中はひどく暑い。
湿気が充満している。意識が朦々とする。

( ^ω^)(いやいや、じゃあ……ということは……僕の家柄を知っているということは……)

ギコは父を直接は知らない。ならば――。

( ^ω^)「あなたも――あなたの父も、僕の父と同じ柔束藩士だったのかお」

(,,゚Д゚)「そうとも。貴殿と同様脱藩徒士の末裔、いや、亡霊よ」

依然精悍な面構えでギコは頷いた。

13 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:19:26.98 ID:pyRuUu9v0
聞けば、ギコの父は嘗て御目見の格を持っていた上士だったそうである。

(,,゚Д゚)「だがそれも昔の話。
    とある時期に、古参家臣と新参家臣間の抗争――まあいわゆる御家騒動だな、
    こいつに父が巻き込まれてしまって、賞罰により徒士衆の一人にまで位を落とされた」

内藤はその逸話は初耳だったから、おそらくは自分たち親子が藩の領土を離れてからの出来事なのだろう。

(,,゚Д゚)「俺の父は……何もしなかった。どこにも落ち度はなかった」

自尊心は大いに傷つけられたらしい。

(,,゚Д゚)「横暴に愛想が尽き、ついに父は俺たちを連れて逃げた。
    逃げに逃げた。
    道程は過酷を極めたよ。脱藩道中、赤子だった弟は栄養不良による低体温症で息絶えた」

ギコはそう静かに語った。

(,,゚Д゚)「分かるだろう、貴殿も。俺の気持ちが。俺の父の想いが」

内藤は、なんとなく分かるような気がした。
実際に声に出して言っていることの意味よりも、言わんとしていることの意図がやけに生々しく伝わった。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:20:41.19 ID:YHaM9mUT0
お前らのGIANT KILLINGを魅せてやれ!

15 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:22:07.72 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「父は主を変えて一から出直した。
    しかし……余所者を無闇に重用する藩主などおろうか。否おるまいて。
    案の定その日その日の食い扶持にも窮する貧乏生活を余儀なくされたわ」

家族一同覚悟はしていたそうだ。
とはいえ現実は厳しい。

(,,゚Д゚)「十三の時に奉公に出された。遅い丁稚だ」

なんでも、隣国の湊町にある乾物店で働いていたらしい。

(,,゚Д゚)「だがそれも精々三、四年ほどのこと。刀を買うだけの銭が貯まったら、俺はとっとと脱走した。
    うんや、給与は住み込みの丁稚小僧だったから当然なかったんだが、
    少しずつ店の売上をくすねさせてもらったのだ。最初から出ていくつもりだったからな。
    爾来貴賎を論じぬ剣客商売に身を任せる、気ままな浮浪人生活よ」

からからと笑う。内藤は少し羨ましくなる。
類似した境遇に置かれていたのに、今現在に至るまでの道筋はまるで違う。
何よりギコは武士としての性分を捨ててはおらぬ。
自分は剣術のいろはも知らない。

(,,゚Д゚)「貴殿は――内藤は完全に武士をやめてしまったのか」

薄黒い衣を纏った若侍は太刀の鍔を弄いながら呟いた。

16 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:24:17.43 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「え?」

(,,゚Д゚)「見たところ、立派な一軒家を構えているのに武家奉公人も雇っていない。
    武士ならば本来、最低でも世話役の下男ぐらい抱えるはずだ。
    最早内藤の家柄はすっかり武士ではなくなったのか? それとも雇えぬほど貧しいからか?」

(;^ω^)「まあ……その両方かな……。一時期は奉公人もいたけど……」

それでは到底やっていけない。

(,,゚Д゚)「――家禄は」

( ^ω^)「なんだお?」

(,,゚Д゚)「家禄はいくらもらっていたのだ、内藤の家は」

ギコは落ち着いた声音で尋ねた。
内藤は答えようとしたが、何分幼き時代の話なので記憶が曖昧である。

( ^ω^)「父の切米の高は覚えていないお。ただ父は下級武士だったから、そう大したことはないかと」

そう答えた。
なにせ武士だった頃の父親の記憶などほぼ残っておらぬ。
内藤の頭にあるのは藩を抜けた後、行商に身を偽り、竹編みの籠を背負って出かけていく父だけである。

17 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:26:36.98 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「そうか。では、脱藩後の父君の稼ぎは如何ほどだったか」

(;^ω^)「いや、自慢にもならないことだけども、そちらのほうも寂しいもんだったお」

暮らしぶりが豊かだったことなど一度たりともない。

(,,゚Д゚)「現在の稼ぎは」

(;^ω^)「それに輪をかけて……」

内藤はなんだか恥ずかしくなった。

(,,゚Д゚)「そうか――」

そこでギコはしばらく押し黙り、少々思い悩むような顔つきをしてから、

(,,゚Д゚)「ならば謝礼はこれだけ出そう」

と指折り数えて言い出した。
内藤は目を丸くした。

(;^ω^)「け……桁は?」

質問する気などなかったはずなのに、俗にも口を滑らせてしまった。

18 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:28:46.01 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「相場を熟知している商人の貴殿に言うまでもなかろう。想像と寸分違いもない桁よ。
    俗世に生きることを捨て修羅道に足を踏み入れた者にゃ、金になる汚れ仕事はいくらでもあるものよ」

ギコは赤褐色の唇の片端だけで笑った。

(;^ω^)「ちょちょっ、そりゃまあ確かに額が魅力的なのは認めるけれど、だからってやると決めたわけじゃないお!
      どんなにもらったとしてもやれることとやれないことがあるお!」

頭を振りつつ内藤は言う。

(,,゚Д゚)「分かっている。誠意とは言葉と、そして態度だ。だから……とにかく話を聞いてほしい」

必死に反論しようとしたが、ギコはあくまで自分の領域に内藤を引きずり込んだまま話を進める。

(,,゚Д゚)「この通りだ」

ギコは深々と頭を下げ、その勢いのまま土に膝と手の平を付き、額を地面にこすりつけた。

(;^ω^)「ちょっ、ちょっ、やめてくれお! 土下座なんてされても困るお!」

内藤は居た堪れない気持ちになる。

( ^ω^)「……やっぱりできないお。人を殺すだなんて、できるはずがないお」

(,,゚Д゚)「貴殿にしか願い出れぬのだ。貴殿も武士の一人だ」

19 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:30:29.08 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「武士は人斬りとは違うはずだお! 大体なんで僕なんだお!」

(,,゚Д゚)「他に身を寄せる者がおらぬ。それに貴殿が最も目標に接触しやすい人物だと判断したのだ」

切々と言葉を紡ぐギコの瞳を、ついに内藤は直視することができなくなった。
黒い汚れの滲みた天井を見上げるか、土間に敷いた白い砂を見下ろすかで、内藤は多少悩む。

(;^ω^)「うう……」

無茶苦茶だ。この男は常識を著しく欠いている。
初対面で他人に殺人を依頼するなど気が触れているとしか思えない。

しかしながら、この閉鎖された空間では、常識が意味を為していないように内藤には感じられた。

暑い。
熱気が内藤の理性を奪う。

内藤は目を閉じ考えた。

できるのだろうか。自分に。やってよいものなのか。

私利で行う人殺しは、思い尽く限り不義不忠の頂点だ。
そのような凶行が許されるはずもない。
言うまでもなく内藤も十分に理解している。理解していなければならぬ。

20 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:33:21.03 ID:pyRuUu9v0
だがギコは懸命である。
聞き手の内藤も真剣さを目一杯に感じる。

そして互いに共通点がある。
父親は共に脱藩者。命からがら逃亡し、幼少期に辛酸を舐めた経験を持つこと。
同じなのだ、我々は。


少し、揺れ動いた。


(;^ω^)(――って、僕は何を考えてしまってるんだお!?)

危ない。

ここは危ない。

ここは――温度が高すぎる。

(;^ω^)(気が触れてるのは目の前のこいつなのか……それとももう、僕になってしまったのか……)

判断力が鈍っている。
思考の糸がぐちゃぐちゃに絡まっている。
どうにも内藤には、正確な決定を下すことが不可能に思われて仕方がない。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:33:37.20 ID:yrCk5FHFO
支援

22 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:36:36.66 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「だけど……僕だって一応内藤家の嫡男、お金で動いて不義を果たすわけには……」

と、内藤がふと漏らした刹那である。

(,,゚Д゚)「そうか! 義か!」

唐突にギコが手を打った。

(,,゚Д゚)「義か、成程、内藤にも武士としての誇りが残っていたか! そうか、そうか」

不思議なくらいに嬉しそうな様子なので、内藤はいささか困惑を覚えた。

戸は完璧に閉まっている。密室である。
けれど室内のほんの僅かな木材の隙間から、蝉の鳴き声が漏れてきて、鼓膜にぴたりと粘着する。
耳元で鳴いているように錯覚する。やかましい。しかし耳を塞ぐことはできない。

一層温度が高くなる。

(,,゚Д゚)「ならば俺が内藤に義を立てよう」

一度息を吸い溜めを作ってから、力強く宣言した。

(,,゚Д゚)「貴殿が憎々しく思っている輩を殺してやる」

23 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:39:50.81 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「!?」

なんなのだ――この男は。

(,,゚Д゚)「俺が死んでほしいと思っている奴を貴殿が殺し、貴殿が死んでほしいと思ってる人間を俺が殺そう」

嗤っている。

(;^ω^)(どうか……してるお……)

内藤は身震いした。
これは正気の沙汰ではない。狂気の沙汰だ。
逃げ出したくなる。しかし――できない。今この場からは流石に離れられない。

狭い土間に対峙する二人の様は真逆である。
客のギコは勢力を得ている。
対して主人の内藤は、その勢いにぐいと気圧されている。

(,,゚Д゚)「さあ言え言え内藤。貴殿が殺したいほど憎んでいる者の名を。
    いくら穏健そうな貴殿とはいえ、菩薩摩訶薩の類ではないのだから、忌み嫌う人間もいるだろう」

己の中で内藤が名前を挙げることを確信しているかのような、自信に満ちた口ぶりである。

24 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:41:33.03 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「……」

内藤は閉口したきり動かない。

( ^ω^)(いや……)

いるにはいるのだ。だが――。

(,,゚Д゚)「ふふ、すぐには答えられぬか。
    仕方あるまいな。死ねと思っている相手の名を迂闊に口外などできますまい。
    だがしかし、貴殿にはいるはずなのだ。いや――いるのが必然のだ」

ギコの目は完膚なきまでに内藤の心を暴いている。

( ^ω^)(やはりそうかお)

そのようにしか考えられぬ。

知っているのだ、この男は。
知っていて自分の元を訪れたのだ。

内藤はようやく合点がいった。白くぼやけていた頭の芯が、すうっと透明になってきた。

25 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:43:03.67 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「ギコさん、あんた――」

甘言を操る浪人は、不敵に笑む。
内藤は心して待つ。

いや――その必要はない。
なぜならば、自分は、この先ギコが挙げるであろう人物名をとっくに解っているのだ。

当然だ。自分自身が胸に秘めていた問題なのだから。

身構えることはない。
既知である正答を弾き出すために、わざわざ珠算に励んでも意味がないだろう。
自分どうこうではない。
所詮は必然的に起きることだ。

それでもやはり、緊張に身が引き締まる。

ギコの口が開く。
その唇の動きだけでも、内藤は言葉が読み取れるような気がした。

(,,゚Д゚)「時の柔束藩当主、長岡。貴殿はこの男を恨んでおるな?」

その通りだった。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:43:18.51 ID:cBgKZJ990
支援でござる

27 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:45:13.81 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「うぐぐ……」

内藤は頬の内側の肉を強く噛んだ。

(;^ω^)「……まさか、今になってその名を耳にさせられるとは思わなかったお」

全身が焼けるように熱くなるのを覚える。
体温が気温を凌駕する。
蝉の声も最早聴こえぬ。ギコとの会話だけが内藤の頭の中に沈殿する。

( ^ω^)(長岡……僕の家族を無茶気茶にした張本人……)

長岡は若い大名であった。
同時に好色で知られた。気に入った女がいれば見境なしに手を出し妾にした。

そうして長岡に目を付けられた女の一人が内藤の母である。母は大変美しい人だった。

( ゚∀゚)「ほほう、配下の内藤の妻はそんなに別嬪なのか?」

噂を聞きつけた長岡は、手篭めにすべく何度も何度も内藤家に通った。

しかし、既に夫のシャキンがいる。
当然操を立てねばならぬ。
母は長岡が傲岸不遜な態度で勧誘に来るたび頭を下げて、その申し出を拒んだ。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:46:13.51 ID:+h2sNsUw0
支援

29 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:48:18.92 ID:pyRuUu9v0
長岡は悶々とした。
同時に苛々した。
自分の思い通りにいかぬことが余程堪えたらしい。
早いうちから権力を得ていたが故の病である。

( ゚∀゚)「よう、今日も来たぞ」

ある夕刻、長岡は酒を飲んで現れた。
その日も内藤の母は丁重に断った。が、長岡の様子がどうにも普段と比べ穏やかではない。

(#゚∀゚)「ちょいと美人だからって、この俺様に逆らってんじゃねぇぞ!
    いいか、俺は、俺はな、お前の旦那の主なんだぞ! 分際を判っているのか、お前は!
    ……もういい、もういらん! 手に入らぬなら、いらんッ!」

憤慨して、駄々をこねる。この若造は気性の激しいことでも城下で有名だった。
ちょうど酔いが回っていたのも災いしたかも知れない。

(#゚∀゚)「ぶち壊してやらぁ! こんのクソアマが!」

刀をおもむろに抜き、その白刃を走らせた。
おびただしい量の血を、袈裟に斬られた傷口から噴き出しながら、麗人は叫び声も上げずに絶命した。

30 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:50:55.43 ID:pyRuUu9v0
だがこの事件はあろうことか――事故死として処理された。
幕府から派遣される御目付役の観察と、体面を気にしてのことである。

かくして内藤の母の死は隠匿された。

シャキンは激怒した。
絶望の日々を送り、夜毎長岡への恨みを募らせた。

しかしどうすることもできない。

主君に刃を向けようものならば罰は闕所どころでは済まされぬ。
腹を切らされるのは必至、いや、それならばまだよいが、見せしめに打ち首に処されることも有り得る。
自分だけならまだいい。ただ、子供がいた。そのような事態に陥ってはならない。

とはいえ長岡の憎たらしい面など二度と拝みたくはない。


(`・ω・´)「――こんな奴の元になど、いられるか!」


妻が死んで一月後、シャキンは意を決して、息子を連れて柔束藩から脱走した。
厭になったのだ。

31 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:53:28.80 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)(確かに……部外者には秘密裏のことだったんだろうけど……柔束藩の人間は薄々感づいていたはず。
      ギコの父も、多分、知っていた。だったら聞かされていてもおかしくはないお)

(,,゚Д゚)「俺の掴んだ情報だと、長岡はとうに藩主の座を子息に譲って隠居しているらしい。
    場所は北だ。ここから往路で……大体、夜通し歩けば四日か五日ほどの距離になるな。
    そこに直々に乗り込み貴殿への義を果たそうではないか」

(;^ω^)「ううむ……」

内藤は腕を組んで思い悩む。
生前父が母の無念を語る都度、内藤も行き場のない怒りを覚え、恨み骨髄に達していた。

( ^ω^)(確かに殺してやりたいほど憎いお。本気で憎い。でも――)

その交換条件が殺人。

( ^ω^)「……ちょっと考えさせてくれお」

(,,゚Д゚)「おお、よい返事を待つぞ」

( ^ω^)「期待はしないでほしいお。ことがことだけに」

32 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:55:48.10 ID:pyRuUu9v0
量りにかける。
果たして私怨も何もない無関係の人間を殺してまで、内藤家の怨念を晴らしてよいものか。
けれどこれは好機でもある。積年の恨みを消し去ることは何事にも代えがたい。

(;^ω^)(……ってもこんなやり方じゃ絶対悔いは残るお)

それでも――蟲惑的である。

(;^ω^)(どうすればどうすれば……)

暑さは消えている。
だとすれば、この足先から脳髄まで隈なく駆け巡る熱は、自分から湧き起こっているものか。
自分から――狂おうとしているのか。

しばらく俯いて道徳心と戦った結果、

( ^ω^)「――分かりましたお」

目を戻すと、ギコは居間に飾られた仏壇を眺めていたが、顔を上げた瞬間即座にその視線が内藤へと向いた。
一旦先刻まで脳裏をかすめていたあらゆる思惟を一切合財放り出す。それから呼吸を整え、

( ^ω^)「やります」

そう告げた。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:57:14.97 ID:/Z0NEFKC0
追いつき支援

34 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 22:57:52.39 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「おお! 真か!」

ギコは二度三度大きく手を打った。

(,,゚Д゚)「ありがたきことよ」

糸が、切れた。
夏の午後の茹だるような暑さと、それに伴う気だるさが、ようやく内藤の身体に戻ってきた。

(,,゚Д゚)「貴殿の快諾に感謝する」

そう言って、ギコは再び頭を垂れる。内藤はなんだか無性に気恥ずかしくなる。

(,,゚Д゚)「ところで……刀はあるのか」

( ^ω^)「一応、父が残してくれたものが。ただずっと使っていないから多少の手入れは必要だお」

(,,゚Д゚)「うむそうか。それは一安心だ。
    貴殿の様子だと、ややもすれば質に入れてしまっているかも知れぬと案じておった」

(;^ω^)(ぶっちゃけちょっと考えたことはあるけど)

やはり形見は売れない。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 22:59:27.35 ID:nrVnbJl40
追いついた
支援

36 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:00:44.22 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「もっとも、あの女の殺害に刀など使っていては目立って仕様がないな。
    匕首あたりを用いるのが適当か……いやそれより」

ずいと顔を寄せ、ギコは声量を絞って尋ねる。

(,,゚Д゚)「――内藤よ、本当にやってくれるのだな」

内藤の鼓動が更に大きくなる。
それを察知されぬよう、努めて平静を装い、交差した視線を外さず答える。

( ^ω^)「この期に及んで急に撤回したりはしないお」

(,,゚Д゚)「二言はなしか。
    誠によきことであるが、それは商談における駆け引きの技術か、それとも武士の心構えか」

( ^ω^)「……両方だお」

(,,゚Д゚)「結構!」

ギコは喜ばしげに内藤の肩をぱんと叩いた。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:01:11.49 ID:mSlIRfG70
シベリア図書館の>>57にかわって支援!

38 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:02:44.89 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「だけどその前に……あー、一個訊いておきたいことがあるお」

(,,゚Д゚)「なんだ?」

( ^ω^)「どうして――ギコさん自身の手で、その女の人を、ええと、殺してしまわないのかお?」

率直な疑問だった。
刀剣を振り回したことのない自分よりは、ギコのほうが適任に思える。

ギコはひとつ溜息を吐いた。


(,,゚Д゚)「いや、それなのだがな、その女――ツンというのだが」


( ^ω^)「ツン?」


聞き慣れぬ名前である。

39 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:05:19.14 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「これが中々曲者で……比肩する者がおらぬほど警戒心が強いことで評判なのだわ。
    滅多に表に出ないものだから、疑り深い上、自分を他人に曝け出そうともしない、と噂になっておる。
    なので接近するのも、接近してから油断を誘うことも困難極まりないと、推定される」

( ^ω^)「ほほう」

自分とは正反対だな。
内藤は密かにそんなふうに考えた。

(,,゚Д゚)「実を言えば最初は俺の手で殺そうとしたのだが……、
    本当に姿を見せぬのか確かめようと、一度屋敷の前を通りかかった際、ばっちり顔を見られた。
    迂闊だったよ。最早失敗も同義だ。二度と近づくことはできんだろうな」

( ^ω^)「ん? だからってギコさんなら強引にでも捻じ伏せられるんじゃないかお?」

なにせ標的は女なのである。

(,,゚Д゚)「ところがそうはいかぬのだ。もう一個の理由がまた厄介なのだよ。
    ツンは備富町の外れに住処を構えていて、そこに用心棒を雇っているのだが、これがまあ強い。
    こいつが昼夜離れず見張り続けている限り、闇討ちし寝首を掻くことさえ不可能だろう」

神妙な面持ちでギコは語る。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:05:35.17 ID:+h2sNsUw0
支援

41 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:08:38.39 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)「えっ、ちょっと待って、そんなん聞いてないお?
      用心棒? めっちゃ強い用心棒? 勝てるわきゃねーお? ギコさんも無理なんだお?
      えっ? 勝たなきゃダメなの? は? 僕が? えっ?」

(,,゚Д゚)「そう焦るでない。確かにまともにやりあっては到底敵わん。だからこそ貴殿が適任なのだ」

浪人はどこか愉快そうな微笑を浮かべた。内藤には訳が分からぬ。

(,,゚Д゚)「まあ――細部は後にしよう。今度はそちらが望んでいる殺しの話だ」

しっかと、ギコは内藤の目を見据える。

( ^ω^)「本当に、やってくれるのかお?」

内藤の目にはまだ少し疑念が残っている。

(,,゚Д゚)「無論だ。うんや怪しむ気持ちは分かる。だから、なるべく早く貴殿に俺の義を証明したい。
    二十日――いや十日あれば、長岡の命を散らしてみせようぞ」

( ^ω^)「十日? それじゃ往復の移動だけで大半の時間が消えちゃうお?
      大丈夫なのかお」

(,,゚Д゚)「なに、歩くことには慣れている。
    それに、俺は、今の今まで剣の腕と持ち前の度胸のみで世を駆けてきた身だ。
    十日で此度の使命を遂行するなど造作もないことですわい」

42 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:11:18.64 ID:pyRuUu9v0
ギコはわはっはと大きく笑う。次いで内藤に提言を与える。

(,,゚Д゚)「十日後にまたここに来る。よい報告ができるよう善処するゆえ、それまで待っていてくれ。
    始末してもらいたい女の詳しい情報はその際に話す」

( ^ω^)「ん? なんで今日教えてくれないんだお」

(,,゚Д゚)「些細なこと。俺のいぬ間に内藤が迂闊な手段に出るかも知れぬ……と、そうなることを案じておるのだ。
    こちらから依頼を持ちかけておいて無礼だとは思うが、貴殿をまだ完璧に信じ切れてはいないのだ。
    当方にも前々から思い描いている計画があるのでな」

( ^ω^)「要するに僕が好き勝手行動しちゃうと困るってことかお」

(,,゚Д゚)「ずばりだ。申し訳ない」

約定を交わしたとはいえ、皆まで任せきったわけではないということか。

( ^ω^)(まあ……生まれが似た者同士とはいえ、他人は他人だから仕方ないことだお。
      むしろ正直に言ってもらえたほうが楽っちゃ楽だお)

また夏虫が煩くなる。
いつの間にやら、内藤を覆っていた狂熱はすっかり冷めていた。

43 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:13:31.27 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「さあでは俺は出発しよう。小汚い浪人が長居していては貴殿の面目も立たないことだろう。
    今日はこの辺でお暇させていただく」

そうは言っているが、内藤は然程世間体を気にする性質ではない。
もっとも長居されるのもあまり気分のいいものではないが。

(,,゚Д゚)「旅の支度が済み次第、早速長岡の根城に向かわせてもらうとする」

( ^ω^)「善は急げ、ってやつかお」

(,,゚Д゚)「いやいや何が善なものか。我々は悪行と重々承知していて動かねばならぬのだ。
    たとえ己の正義に基づく行為であっても、我々がこの先為すべき所業は誰にも許されぬことだ。
    御仏も大目に見てくれはしまい。
    特に俺は、今はまだ明かせぬが、仄暗い理由で殺害を頼んでいるのだからな。
    貴殿にはあくまで母の仇という大義名分があるが」

ギコの声は冷静である。

(,,゚Д゚)「だがそれでもやらねばならぬ。怖れるものがあってはならぬ。
    そいつが武士の覚悟というものよ」

収まりよく結んでギコは内藤に背を向けた。
一瞬見せた横顔には、どこか狼を思わせるほどに、畏ろしさと、気高さが同居していた。

44 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:14:53.07 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)(ああ)

――この男は餓えているのだ。
内藤は今になって悟った。

袖下から手を差し入れて脇に触れる。
汗をびっちょりとかいている。
どれほどの時が経過したかも分からない、長い緊張から解き放たれ、どうやら汗腺も弛緩したらしい。

(,,゚Д゚)「内藤よ」

屋敷から退場するに瀕した際、不意に足を止めてギコは内藤を振り返った。

(,,゚Д゚)「武士道を離れておったとはいえ、貴殿もやはり忠義の士であったのだな」

そうしてにやりと笑い、

(,,゚Д゚)「御免」

早足に去っていった。
残された内藤は、ただ、親の手からはぐれた幼子のように、呆然とその場に立ち尽くすのみであった。

蝉が鳴く。蒸し暑い夏の季節はまだまだ終わらない。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:16:26.86 ID:+h2sNsUw0
支援

46 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:16:53.36 ID:pyRuUu9v0



(,,゚Д゚)「さすがに首は持ち運べなんだ」

( ^ω^)「……」

約束通り、ギコはあの日からちょうど十日後の夜に参上した。

(,,゚Д゚)「大荷物になる。あんな重い物を抱えていては速度も落ちる。
    それに何より怪しまれるとまずい。関所で小うるさい役人に調べられると言い訳もできぬのでな。
    なので歯型と紋所を持って参った」

そう言うとギコは懐から何やら取り出した。

( ^ω^)「これは……」

包みを解くと、封じられていたのは粘土である。くっきりと噛み跡が刻まれている。
そして包んでいた濃緑の布に注目をやると、これは帯である。

47 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:18:46.84 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「この帯の柄――長岡家の家紋だお」

忘れもせぬ。
父シャキンが柔束藩の膝元から離れると決めた日の晩、
夜叉の形相でこの紋様の入った羽織を燃え盛る火の中に投じていたことを。

五歳の頃のことなど大方覚えてはいないが、その光景だけは生々しく瞼の裏に焼き付いている。

( ^ω^)「……長旅御苦労さんだお」

「うむ疲労困憊しておる。足が痛むので今宵は客間に上がらせてもらったが」

ギコは億劫そうに足の裏を揉む。
そして歯型の付いた粘土を拾い上げ、手の平でころころと弄び、時折宙に放り上げては掴むことを繰り返す。
内藤が淹れた茶は手つかずのままでぬるくなってしまっている。

(,,゚Д゚)「とはいえこれだけで信用してもらえるとは踏んでおらん。
    正確な情報は後に耳に入るだろうから、それまで――」

( ^ω^)「いいや、信じるお」

きっぱりと答えた。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:19:43.57 ID:IGs3Sx6XO
支援

49 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:22:00.45 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「というか……信じざるを得ないお。
      あれから気になって気になって、ギコさんが発ってから毎日町の情報屋に通い詰めていたんだけど、
      一昨日、つい先日柔束藩の旧藩主が何者かの凶刃によって倒れたと、そう聞かされたお」

(,,゚Д゚)「うん? 一昨日か」

ギコは軽く首を傾げる。

(,,゚Д゚)「もう少し遅くなるかと思っていたが……いやしかし結構結構。話が円滑になるというものよ。
    俺もどうやら飛脚どもの足には勝てなかったようだな。歩きには自信があったのだがなぁ」

( ^ω^)「そりゃ、飛脚は宿場間を交代で走ってるから当然だお。
      世の仕組みは能率よく変わっていくもんだお。それよりも――」

一度言葉を切る。

( ^ω^)「今度は僕がやらなきゃいけない番だお」

無理矢理に次の句を吐き出した。
内藤はこの数日間碌に寝ていない。
不安と焦燥と、恐怖に苛まれ、ふとした瞬間に罪悪感に押しつぶされそうな苦しい日々を送っていた。

それでも仕舞わねばならぬ。
事実、ギコは自らの仇敵である長岡を片付けてきている。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:24:43.21 ID:+h2sNsUw0
支援

51 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:25:51.51 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「その、ツンという人の細かい情報をくれお」

(,,゚Д゚)「ようがす、では――」

するとギコは、懐から今度は畳まれた粗紙を出した。
広げると地図である。
複雑な線がごちゃごちゃと入り混じって描かれた図の中に、ひとつ目立つように印が付けられてある。

(,,゚Д゚)「ここに奴は住んでいる。備富の町の中でも、かなり山に近い地域にあるな。
    木々と緑が生い茂っておるから、この時期はさぞ涼しかろう。その分夏虫も煩いに違いないが」

( ^ω^)「行ったことのないところだお」

(,,゚Д゚)「珍しい。行商人の貴殿が」

(;^ω^)「あんまり人気がなさそうなところには行かないんだお。面倒な割に見返りが少ないし」

(,,゚Д゚)「ふむ。まあでも、そのほうがよいな。
    足を運んだことがないのであれば顔を見られている可能性も低いであろう。
    むしろ好都合ではないか。よきことかな」

くつくつとギコは喉を鳴らす。内藤の眼差しは不変である。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:26:59.63 ID:DHEWA0TU0
紫煙

53 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:27:05.44 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「さて内藤。話を戻す。
    前回話した通り、このツンという女は大変猜疑心甚だしい人物だと巷間で言われている。
    しかも屋敷から出てこないものだから懐を探るのも一苦労だ」

内藤は部屋の中に一日中籠る女性の姿を想像する。
光はない。音もない。外界と接することなどまるで叶わない。
膝を抱え、ただ無為に時を消費する。

それでは――檻に込められているのと変わらぬのではないか。

( ^ω^)(楽しいのかお、そんな暮らし)

(,,゚Д゚)「そこで」

ギコはあぐらをかいている膝を諸手でぴしゃりと打つ。

(,,゚Д゚)「貴殿にはこの女の心を開いてもらいたい」

(;^ω^)「――は?」

意想外な発言に内藤は唖然とする。

(;^ω^)「なんでまた、そんな」

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:28:07.61 ID:+h2sNsUw0
支援

55 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:29:49.01 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「いやいや、これにはちゃんとした理由があるのだ。ツンには用心棒がいることは既に伝えたな?」

( ^ω^)「ああ……なんか出鱈目に強いと噂の人なんでしょうお」

(,,゚Д゚)「うむ。だが隙はあると信じ、顔を巻布で隠して何度かに分けて張り込み行ったことがある。
    これでも下調べには労力を惜しまない性なんでな」

( ^ω^)「意外と真面目」

(,,゚Д゚)「うむ。余念はない」

ようやくギコは茶をすする。遠慮なく不味そうな顔をする。

(,,゚Д゚)「しかし無理だった。女が顔を見せることはない。
    あの用心棒の監視の目を盗んで侵入することも考えたが、それはあまりにも虎穴すぎる。
    やはりこちらから正面切って乗りこまねばならぬようだ」

燭台の灯がふっと揺れる。夜風が出てきたか。

(,,゚Д゚)「そこで貴殿の出番だ。貴殿にツンからの信用を勝ち取ってもらいたい」

( ^ω^)「例の用心棒が傍にいなくても大丈夫なくらいに……かお」

(,,゚Д゚)「おうよ」

56 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:32:15.85 ID:pyRuUu9v0
(;^ω^)(こりゃ思ったより面倒なことになりそうだお)

(,,゚Д゚)「もちろん早急には無理だ。
    時間をかけて少しずつ氷を融かし、過不足なく支度を済ませてから――ざくり、と。
    長期に及ぶであろう作戦だが……これ以上の策は捻り出せぬのでな」

( ^ω^)「でも、それだったら僕じゃなくてギコさんでもできたんじゃ……」

(,,゚Д゚)「だから既に顔を見られたと言っておろうが。
    俺は御覧の通り、見るからに不審だと世の者どもに思われるのでな。
    月並の人間にも用心されるぐらいだ。
    ましてあの女だ。一度覚えたら間違いなく神経を尖らせてかかるだろう。一対一の状況などまず作れまい」

確かに、眼前にいる浪人では殺気が強すぎる。
蝋に灯した裸火の仄かな明かりに照らされたその顔は、成程眉目秀麗ではあるのだが、
どうにも表情に内面の危うさが滲み出てしまっている。

一方内藤は、決して男前とは呼べぬが、常に笑みを湛えた柔らかい顔つきである。

(,,゚Д゚)「よって貴殿のほうが適任なのだ。
    その穏和な表情、柔和な物腰、さすがのツンもまさか自分を殺しに来た刺客だとは思うまい」

ギコは首筋の辺りを掻いた。
蚊かな、と内藤は思う。そういえば今夏はまだ蚊帳を出していない。

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:33:46.84 ID:OLkBUrss0
しえん!

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:34:37.55 ID:+h2sNsUw0
支援

59 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:35:05.87 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「貴殿は恵比寿顔だとよく言われるだろう」

( ^ω^)「まあ、言われてみれば身に覚えが……だからって恵比寿さまの加護があるわけではないけど」

もしそんなものが自分にあるのであれば商売繁盛のご利益がもたらされているはずだ。

(,,゚Д゚)「それにだ、今だからこそ白状するが、俺は前もってある調査をしていてな。
    貴殿の屋敷を伺う数日前から、貴殿の評判を備府町の民衆に訊いておったのだ」

( ^ω^)「えっ、本当かお?」

内藤は、自分でもなんだかよく分からぬのだが、頬の肌がぽっと赤くなるのを感じた。

(;^ω^)(恥ずかしい……)

(,,゚Д゚)「『薬売りの内藤』の人物評価は中々上々であった。
    品や舌先ではなく人柄の良さで商売をしているなどと、皆口を揃えて言っておったわ。
    俺は安心したぞ。この男なら我が計画を成し遂げてくれるだろうとな」

(;^ω^)「はあ……」

嬉しいやら照れ臭いやらで、内藤の丸い顔は一段と赤く染まった。
障子窓の狭間から吹き込む冷めた風がありがたく感じる。

(,,゚Д゚)「言っただろう、下調べに余念はないと。それだけ俺はツン殺しに本気なのだ」

そう締めくくる。

60 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:39:13.59 ID:pyRuUu9v0
(,,゚Д゚)「――内藤よ」

ギコは内藤の眉間あたりに目線の先の照準を合わせる。

(;^ω^)(また、あの目だお)

己の奥底に潜んでいるものを暴露するかのような、あの目つき。
内藤はこの目がどうにも苦手だ。訳もなく背筋が冷える。

(,,゚Д゚)「俺はこの女が大層憎い。こやつの事を考えるだけで腸が煮えくりかえる。
    一刻も早く冥途に葬り去ってもらいたいが、今は我慢せねばならぬ。焦りは失敗の種だ。
    貴殿の務めが滞りなく成功することを祈っておるぞ」

内藤には、どうしてそこまでギコが怨恨を抱いているのか解らぬ。

( ^ω^)(まあ根が似たような事情があるんだろうお。追及はしないでおくお)

あまり深い事情は内藤としても知りたくない。
無闇やたらに話を追って、仮に女に同情を覚えるような動機であったならば、逡巡が生まれるかもしれぬ。
それはいけない。あくまでも事務的に施さなければならない。

それが一番内藤の精神衛生上良い。

61 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:40:28.87 ID:pyRuUu9v0
日中あれほど喚いていた虫の声は何ひとつ聴こえない。
静かな夜である。

(,,゚Д゚)「俺が最も危惧していることは、貴殿がこの女と関わって情に流されてしまわぬかということだが……。
    まあ、貴殿に限ってそれはないであろうな」

( ^ω^)「さあ、どうかお。僕も男寡、花の代わりに蛆の湧く年頃になってきたお。
      なにせこれまで女っ気のないお寒い人生を送ってきたものだから、
      実際に会って惚れてしまうこともあるかも知れないお」

(,,゚Д゚)「ん、惚れる?」

( ^ω^)「そうだお。もしかしたら」

(,,゚Д゚)「……ふははは! それは面白い冗談だな!」

突然ギコは大声で笑い出した。

(,,゚Д゚)「その点に関しては全く心配なぞしておらんわ。
    恋煩い? 物想い? わはは、ありえぬありえぬ」

ギコはまだ腹を抱えている。

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:44:23.82 ID:DHEWA0TU0
やべぇ面白いのに眠たくなってきた……支援

63 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:44:29.20 ID:pyRuUu9v0
不可思議に思い内藤は問う。

(;^ω^)「何がそんなにおかしいのかお」

(,,゚Д゚)「うふふ、実際に目にすれば分かるというものよ。
    ともかく、そのような感情に左右されることなどないと信じておるのでな、一任するぞ」

湯呑みを掴み上げ残りの茶を一気に飲み干すと、ギコは起立し、

(,,゚Д゚)「また明日の夜に来る。陽の出ている間にひとまずの段階を済ませておいてくれ」

と言い残して戸板を開けると、瞬く間に闇に溶けていった。

( ^ω^)「……ふぅ」

内藤はぐるりと両の肩を回す。だが、前に回転させようが後ろに回転させようが、ぎこちなくしか動かない。
重荷は取れていない。むしろ増したような感じさえする。

( ^ω^)「……とりあえず……会いに行かないことには何も始まらないお」

ともかく明日は出向かねばならぬ。

64 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:46:23.42 ID:pyRuUu9v0
2.無漏ノ蕾


翌日――。

内藤はツンの邸宅に向かっていた。

(;^ω^)「やべぇ、よりによって今年一番の暑さじゃないかお。こんな日に限って……」

流れる汗を拭いながら内藤は進む。
内藤の屋敷は町の外れにあるが、此度目指しているツンの住居は、そのちょうど反対の町外れに存在している。
だから備富町を横断する形になる。備富はこの地方でも最大級の町である。

今は町の中心を抜け、脇に繁茂する野草の香気を乗せた、青臭い風の漂う道を歩んでいる最中。

(;^ω^)「あっちー。こりゃたまらんお」

青々と晴れ渡る空には雲の一筋も流れておらず、太陽の日差しを遮るものなど何もない。
今朝からずっとこの様相であったので、砂利道にも熱が堆積している。
草履越しに、熱された砂の温度が内藤の足の裏に伝わる。

ちょっとひりつくな。
そう思った。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:47:34.78 ID:+h2sNsUw0
支援

66 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:50:14.08 ID:pyRuUu9v0
実際に歩いてみて分かったのだが、この道は緩やかな坂になっている。
傾斜は非常に小さいくせに距離は長々と続くという、誠に緊張感のないだらだらとした坂道である。

(;^ω^)「じわじわと体力を奪われていくお……」

地図は平面だが現実はそうとは限らない。

頬被りの上から傘をかぶり、背に薬を詰め込んだ竹籠を負っての行路という、
平素と何ら変わりない格好であるのだが、猛暑を抜きにしても、どうにも普段より疲れが溜まるように感じる。
気も重い。くたびれた仕草ばかり無意識にとっている。

おそらく、自分は今になって臆してしまっているのだろう――。

( ^ω^)「まだ着かないのかお。いい加減見えてきてもいい頃じゃ」

口に出してはみたものの、これは本心ではない。
自己の内側でそのことを認める。
永遠に目的地に辿り着かなければどれほど楽か。将来殺す破目になる者の顔など、見たくないのが本音である。

けれど既に乗りかかった船。

( ^ω^)(漕ぎ出してしまったらもう後戻りはできないし、自分の都合で止まってもくれないんだお)

牛歩だが、確実に足を進める。
歩き続けるうちに、踵がなだらかな坂に馴染んでいくのを、内藤ははっきりと感じた。

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:52:13.33 ID:cvnYkLca0
しえ

68 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:54:14.65 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「お、あれかお」

長々と歩き続けて、ようやく、道の伸びた先に一軒の屋敷が見えた。

(;^ω^)「でけー家……」

建造物としての大きさもさることながら、内藤の注目を奪ったのは、まずその建築様式である。

(;^ω^)「なんでこんな無駄に柱があるんだお。なんで外壁に彫り物がされてるんだお。
      しかも屋根が瓦葺きじゃないとか奇想天外にもほどがあるお……」

門の前に突っ立ったきり中々足が進まない。

二階正面には擦り絵の入った硝子窓が、この屋敷の象徴であるかのように堂々と鎮座している。
描かれている絵柄が何なのかは内藤には見当がつかぬ。
観測したままで表せば赤子を取り上げる産婆のように見えるが、それすらも所詮は虚ろな推察に過ぎぬ。

( ^ω^)「どんな奴が住んでるんだお」

内藤はこのような造りの屋敷を目にしたことがない。
異国の香がする。内藤は若干戸惑う。

同時に、成程寄りつく人間がいないはずだ――とも思う。
単純に辺鄙なだけではあらず、ここだけ世俗から切り離された、隔絶した空間になっている。

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/01(木) 23:55:46.11 ID:+h2sNsUw0
支援

70 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/01(木) 23:57:42.17 ID:pyRuUu9v0
( ^ω^)「……まあ入ってみないことには始まらないお」

内藤は扉を――引き戸ではなく、鉄製の扉の隣に据えられた呼び鈴を鳴らす。

とはいえ、扉は開くのだろうか。
ギコの話ではツンという女はやたらめったら警戒心が強いとのことである。
そもそも例の用心棒とやらが応対するかも分からぬ。

(;^ω^)「……遅いお」

程々待った。しかし一向に開く気配がない。
すぐ裏はもう山林である。目に鮮烈な青葉を揺らし木々がさやりさやりと鳴いている。

( ^ω^)「留守にしてるのかお。まさか」

と何気なく、得体の知れぬ模様の彫金が施された取っ手に指をかけた瞬息である。

(;^ω^)「あ――開いてる?」

がちゃり、と重たい音を立てて、取っ手は下方へと捻られた。
施錠がなされていない。

71 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:00:28.91 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)「……あれ?」

話と違うではないか。保身に神経質なのであれば、鍵が下ろされているのが自然ではないのか。
これではむしろ――無防備ではないか。

(;^ω^)(ギコさんの得ていた情報と、食い違ってる……?)

この程度誤差の範囲、と割り切ってしまっていいのだろうか。
ただどうにも内藤は気にかかって止まない。

錆びた蝶番が軋んでいる。
把手を握りしめているこの右手を引けば、この鋼鉄の門扉の守護は解かれる。
思い切って開き切ってよいものか、内藤はしばし逡巡する。

その時。

「ちょっと! そこで何してるの!」

天から降りかかってくるような甲高い声を受け、慌てた内藤はとっさに手を離し背筋を伸ばした。

声は何処からか。
上だ。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:00:51.49 ID:RR60SIAc0
支援

73 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:03:49.28 ID:kSch0PMr0
「暇潰しに外の景色でも眺めようかなって思ったら……。
 ねえ、一体何をしているの? あなたは何をしに来たの?
 わざわざこんなところにまでやって来て、どうするつもりなの? ねえってば!」

見上げると、小窓から身を乗り出してこちらを俯瞰している者の姿がはっきりと確認できた。
想像と幾分乖離した、きいきい喚くような声音である。
あの女がツンか。
状況からしてそれ以外の選択肢は考えられぬ――考えられぬのだが。

(;^ω^)(いいや、でも、だけど――)

内藤は今もなお自分の網膜に疑問を投げかけている。


(;^ω^)「あ、あなたがツンさんですかお?」

ξ゚听)ξ「そうよ! 私がツンで何か都合の悪いことでもあるの?」


若い。いや若すぎる。これではいっそ、幼いと呼び表してしまったほうが余程適切であろう。

つまりは少女なのである。

74 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:05:34.12 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)「ぬ、それに……」

内藤は別の事に意識が向く。

こうして階下から仰ぐツンの貌は、日陰になっているので具体的には判断できぬが、
概ね捉えられる限り顔立ちは日本人のそれではない。
垂れ下がった両結びの髪は薄い橙色をしていて、風が吹くたびに上質の生糸のように柔らかく揺れる。

( ^ω^)「ひょっとして、君は和蘭人かお」

口にしてから、馴れ馴れしく「君」などと呼んでいたことに気づく。
だが子供扱いしてしまうのも当然だ。現に相手は年端のいかない女の子なのだから。

ξ゚听)ξ「そうよ」

明朗快活にツンは答える。

ξ゚听)ξ「でもあっちのことなんて全然分からないわ。
      おとーさんとおかーさんは外国から来たみたいだけど、私はここで生まれたの。
      だから、こっちのことしか知らない。おとーさんも、こっちの言葉しか教えてくれなかったし!」

言動に反してどこか得意げな口ぶりである。
道理で流暢――とまでは言えぬが、特に不自由せず会話できる水準の日本語だと内藤は納得する。

ξ゚听)ξ「それであなたは? あなたは何をしに私のおうちに来たの?
      私の質問にも答えてよ」

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:06:14.50 ID:jHFCK5qA0
ほうほう

76 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:07:32.06 ID:kSch0PMr0
内藤は拍子抜けした。

( ^ω^)(この子が、この女の子が……ギコさんが死んでほしいと念じている張本人)

「憎くて堪らない」などと眉根を顰めて言っていたものだから、相当の悪女を想定していたのが、
いざ顔を合わせてみれば心身ともに年相応の可憐な少女ではないか。

それにギコの談では、人間不信に陥っているかのような懐疑心甚だしい人物のように語られていたが、
こうして間近に会って対話している限りではその気配は欠片も感じられない。
これは如何なことか。

( ^ω^)(所詮は……噂に過ぎなかったのかお)

人との交わりを絶ちたいから誰にも姿を見せないのではなく、
誰も姿を見ないから、勝手に、このいたいけな少女は他人と距離を置きたがっているということにされ、
風評が独り歩きしたのではないか、と内藤は考える。

( ^ω^)(要は、順序が逆)

ギコも目が合っただけで終わったそうである。
実情は、こうして実際に対面して話してみねば解せぬということか。

77 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:09:50.64 ID:kSch0PMr0
しかしながら時を等しくして新たな疑問が浮かぶ。
ツンの様子が噂と異なっているのは、伝聞推定に頼ってはならない、という教訓じみた結末で片づけるにしても、
なぜギコは、こんな人畜無害にしか見えぬ少女に、殺してしまいたいほどの嫌悪を抱いているのか。

ξ゚听)ξ「――ねえ、聞いてる?」

その問いかけを契機に視線を元に戻すと、ツンは依然として内藤を見下ろしていた。

ξ゚听)ξ「どうしたのよ、急に黙って、下向いちゃって。怪しいわね」

ツンは腕を組み、怪訝そうな顔をする。

(;^ω^)「ぜ、全然怪しくなんかないお。僕は歩きの薬売りをやってる内藤という者だお」

ξ゚听)ξ「ないとー?」

応えてから、しまった、と思った。
焦りからかあっさりと実の名を名乗ってしまった。計画に差し障りが出るかも知れない。

ξ゚听)ξ「でも、おうちの前でごそごそやってたじゃない。
      薬を売りに来たんなら『ごめんくださーい』ぐらい言うでしょう?」

疑いの目は強くなる。
やはり噂に違わず警戒が固いのか――とも一瞬脳裏を過ぎるが、
この状況下ではツンに限らず、誰が見ても自分は不審者であろうと内藤は自覚する。

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:11:10.69 ID:RR60SIAc0
支援

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:11:55.85 ID:W5+SRDT60
しえ

80 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:12:27.69 ID:kSch0PMr0
(;^ω^)「よ……呼び鈴は鳴らしたお!」

ξ゚听)ξ「呼び鈴? それって、扉の隣にあるやつ?」

( ^ω^)「そうだお」

ξ゚听)ξ「あれ、壊れてるわよ」

小窓の桟に両肘をハの字に乗せ、軽く頬杖をつきながら、
いかにも悠々自適という身振りで蘭国の少女はあっけらかんと言ってのけた。

( ^ω^)「は? 壊れてるならなんで修理しないんだお?」

ξ゚听)ξ「直し方なんて分かんないわ。私が作ったんじゃないんだもん!」

頬を膨らませてツンは抗弁する。

( ^ω^)「いやそうじゃなくて、君が知らなくても、お父さんやお母さんに任せれば――あっ、もしかして」

内藤はそこではっとする。

( ^ω^)「君の両親は、ここにはいないのかお」

81 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:16:27.55 ID:kSch0PMr0
ξ゚听)ξ「うん。ずっと前から遠くのどこかに旅行しにいって、まだ帰ってきてないの」

特にこれまでと変化のない口調である。

ξ゚听)ξ「あっ、でも一人ぼっちじゃないのよ。
      一緒に住んでるおっきな使用人がいるんだけど、こっちもおうちのことに関しては全然駄目」

察するにその男が件の用心棒なのだろう。
だが内藤は前言のほうが著しく気にかかる。この屋敷にツンの父親と母親は、暮らしていない。

( ^ω^)(事情は……訊けないか)

何やら不穏である。ことによるとギコの動機も関係しているのかも分からぬ。
ツンは下から伺う限りでは別段悲しそうではない。
そのことがまた不可思議だ。ただ単に気丈なだけかも知れぬが、それを幼い娘に求めるのは酷というものだ。

果たして何が裏に流れているのか。

否、それよりも――。

(;^ω^)(僕に……この子が殺せるのかお?)

錯乱する内藤の頭は、その命題で隅々まで埋め尽くされていた。

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:18:14.69 ID:jHFCK5qA0
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83 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:19:19.26 ID:kSch0PMr0
急に影が落ちた。
もう日が暮れたか。いやそんなことはありえぬ。内藤が自宅を出た時、まだ太陽は日中にも至っていなかった。

では物陰か。
これもありえぬ。怪異談でもあるまいし唐突に背後に遮蔽物が地面から生えてくるはずがなかろう。
つまり――。

「オイ」

人の影に他ならぬ。内藤は驚駭して体ごと振り返ると、

( ゚∋゚)「オマエ ココニ ナニシニキタ。 オジョウニ ナニカ ヨウカ」

真後ろに、獅子殺しの猛将も裸足で逃げ出すような筋骨隆々とした大男が立っていた。
顔は非常に彫りの深い強面である。頭髪は綺麗に剃り上げている。
落ち窪んだ目から放たれる眼光は怖いくらいに落ち着いているのだが、獰猛さはまったく隠せていない。

(;^ω^)(こ……殺される! 間違いなく今僕はここで殺されるお!)

内藤はとっさにそう思った。

( ゚∋゚)「……」

対する巨漢の男は、怯える来訪者を尻目に一転して沈黙する。
左の脇には手拭いを被せた揚げ笊を二個重ねて抱え、右肩には籠を担いでいる。

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:19:24.06 ID:RR60SIAc0
支援

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:20:31.02 ID:yapnIrisO
出たな、ブーン系最強候補……

86 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:22:19.86 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)(何かの作業の帰りなのかお……)

その割に纏っているのは、初夏だというのに暑苦しい黒の外套――洋装である。

(;^ω^)(つーかこいつガタイよすぎだお。七尺超えてんじゃねーかお)

( ゚∋゚)「オイ」

(;^ω^)「はいい?」

( ゚∋゚)「ハヤク コタエロ。 オジョウニ ヘンナコトヲ スルツモリナラ……」

(;^ω^)「いやいや、そんなことをしに来たわけじゃないお! 僕はただ薬を売りに来ただけだお!」

慌てて諸手を振って否定する。

( ゚∋゚)「クスリ?」

(;^ω^)「はい。これだおこれ」

内藤は背負った竹の籠を指差す。

( ^ω^)「この中に常備薬がいっぱい入ってますお。おひとつどうかお?」

営業用の笑顔である。だかクックルはぴくりとも能面を崩さない。形勢がよろしくない。

87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:23:59.32 ID:RR60SIAc0
支援

88 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:24:49.41 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「アヤシイナ ソノナカニ ブキデモ カクシテルンジャナイカ」

(;^ω^)「だから違うって! 信じてくれお……」

疑惑の眼差しは強まるばかりである。
現在置かれている不利な状況を打破するために、話題を転換する。

( ^ω^)「ところで付かぬことをお聞きしますが……あなたも和蘭人ですかお」

顔の造形からして間違いのないことだろう。

( ゚∋゚)「ソウダガ」

ξ゚听)ξ「クックルはねえ、私と違って、おとーさんに連れられてあっちの国からやってきたから、
      あんまり日本語上手じゃないのよ」

頭の上から声が降り注ぐ。
内藤はクックルという名前を知った他には特に気に留めず、目の前の男との対話に集中する。

( ^ω^)「ということは……さっきあの子から聞いたんだけど……この屋敷の使用人とは、あんたのことかお?」

( ゚∋゚)「ソウ。 オレ オジョウノ ミカタ ヤッテル」

( ^ω^)(味方、かお)

( ゚∋゚)「オジョウ マモル。 ソレガ オレノ ツトメ」

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:29:01.96 ID:nUMSz6g9O
さるったのでちょっと待ってね

この感じ懐かしい

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:32:14.95 ID:RR60SIAc0
おぉう

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:34:52.77 ID:nUMSz6g9O
ついでにアイス買ってくる

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:41:46.16 ID:RR60SIAc0
てらー

93 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:45:27.49 ID:kSch0PMr0
とりわけ面持ちに感慨はないが、胸を張って答えている。
僅かな掛け合いではあるが、内藤は、話の通じぬ相手ではない――と判断する。

( ^ω^)「でも、その割にはこの屋敷、鍵が開いてたお。警備が緩いんじゃないかお」

( ゚∋゚)「ナニイ?」

ξ;゚听)ξ「ええ? それ、本当?」

素っ頓狂な高音が響いた。発した主は二階にいるツンだ。

ξ#゚听)ξ「クックル! あなた、あれほど外に出る時は戸締りをしておいてねって言っておいたのに! もう!」

(;゚∋゚)「スマン ウッカリ ワスレテタ。 オジョウ ユルシテ」

ξ#゚听)ξ「ダメよ。ついこの前も忘れてたじゃない! 今日のお夕飯は抜きよ、抜き!」

(;゚∋゚)「ソ ソンナ」

誰も喧嘩で敵わぬのではないかという屈強な大男が、うろたえて小柄な娘にへこへこと頭を下げる。
その様は妙に滑稽である。

( ^ω^)(なんだ……意外と抜けてるところもあるんじゃないかお)

内藤はどこか安堵するような気持であった。

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 00:47:23.19 ID:pfASZaFtO
しえ

95 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:48:20.83 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)(……ん?)

少女相手に必死に弁明する用心棒の情けない姿を眺めているうちに、
ふと、笊に掛かった手拭いの端が少し捲れ上がり、雪の結晶のような白い花が覗いていることに目がいった。

( ^ω^)「ほう、当帰かお」

( ゚∋゚)「ウム?」

その言葉が漏れ出た瞬間、クックルが注目を内藤に移した。

( ゚∋゚)「シッテイルノカ クスリヤ」

(;^ω^)「顔! 顔が近いお! ちびっちゃいそうになるからやめてくれお!」

脅迫しているつもりはこれっぽっちもないのだろうが、なにせ図体が図体なので、内藤は気圧されてしまう。

( ^ω^)「あー……そりゃ当然、薬を扱う商売なんだから知っているお。
      当帰の根は煎じて飲めば体の内側の痛みに効き、生葉は活力の源になるお」

( ゚∋゚)「ナント! ハッパニモ コウカガ アルノカ」

( ^ω^)「大抵の薬草にはいろんな部位に効能が含まれているお」

96 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:50:59.82 ID:kSch0PMr0
内藤は、クックルが抱えている竹笊から一本当帰の花を抜き取ってみせる。
独特の芳香が漂う。

( ^ω^)「根と違って甘味はないけど、香りは悪くないから、かじってもそんなに抵抗はないと思うお」

そう告げられたクックルは葉を一枚ちぎり、口に運ぶ。

( ゚∋゚)「……ウマクナイゾ」

(;^ω^)「誰もうまいとは言ってないお」

こうなるともう片方の笊も内藤は気になる。小鼻を動かして匂いを嗅ぐ。

( ^ω^)「ああこりゃ丁子だお」

( ゚∋゚)「ニオイダケデ ワカルカ」

( ^ω^)「香りの強さで有名な植物だから、別に僕じゃなくても同業者なら誰でも簡単に判別できるお。
      こいつを粉末にした漢方薬は胃の調子が悪い時には最適だお。
      末端の冷えにも効くけど、まあ、この時期にはあんまり関係ないかな」

( ゚∋゚)「ウウム クスリヤヨ。 オマエ カナリノ ヤリテダナ」

(*^ω^)「いやいやそれほどでも、あるお」

煽てられて内藤の機嫌はいとも容易く良くなった。
存外にも談笑が弾んでいる。やはり話の分かる相手であったようだ。

97 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:54:52.96 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)「こっちには何が入ってるのかなっと……」

と、内藤が籠の中身を覗こうとした時である。

( ゚∋゚)「ダメダ!」

突然クックルは声を荒げた。地鳴りのような迫力ある重低音に、内藤は身を震わせた。

( ゚∋゚)「……オマエ ヌスムカモ シレナイ。 マダ アヤシイ。 フシン」

(;^ω^)「だから怪しい者じゃないって……」

あははは、と男二人の間に張り詰めた空気にそぐわぬ、鈴鳴りのような笑い声が上がった。

ξ゚听)ξ「うちはねー、裏の畑でいろんな野菜や植物を育ててるの。
      クックル一人でやってるから、私は手つかずだけど。
      せっかく収穫したのにとられたんじゃ、クックルもたまんないもんね」

( ^ω^)「だからそんなことしないって……。
      人が丹精込めて作ったものを盗めるわけがないじゃないかお。
      無理に見ようとしたのは、職業柄とはいえ失礼だったと詫びるけども――」

98 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 00:58:18.91 ID:kSch0PMr0
言い終えかけた途端、内藤の頭にある推測が思い浮かぶ。

( ^ω^)「もしかして、これらを売って生計を立ててるのかお?」

( ゚∋゚)「……アア。 タマニ マチニデテ クスリノタナニ カイトッテ モラッテイル。
     イマイナイ ダンナノ シゴトヲ ヒキツイデイルノダ」

( ^ω^)「なーんだ、じゃあ知らぬ間にあんたにお世話になってたのかも知れないお。
      仕入れ先のおっちゃんにちょっと尋ねてみるかお」

内藤はにこやかな笑顔を見せる。

( ゚∋゚)「……ホウ」

クックルもまた笑った――気がした。

( ゚∋゚)「オマエ オモシロイナ。 オカシナコトヲ シニキタワケジャ ナサソウダナ」

(;^ω^)「やっと分かってくれたかお」

だが――それは偽りである。
「薬売りの内藤」としての姿は本物であっても、その裏にある「ツン殺害を企てる内藤」は、秘匿している。
それを感づかれてはならぬ。粘りのない汗が米噛みを伝う。

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 01:00:27.03 ID:c5UPIUp20
しえん!おもしろい!

100 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:02:41.17 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「キョウミ デテキタ。 チョット オマエノ クスリヲ ミタイ」

( ^ω^)「おお、本当かお」

占めた、と思った。予想外にも、最大の難敵と見込んでいた用心棒のほうが御しやすい対象であった。
商談の技巧になるが、風流に取り入ることの有効さを、内藤は改めて実感する。

( ^ω^)「お安くしとくおー」

ξ;゚听)ξ「えっ、ちょっと、なに私を放って勝手に話を進めてるのよ!」

( ゚∋゚)「オジョウ」

クックルはツンを見上げた。二階の窓から顔を出すツンまでの距離が、幾許か近い。

( ゚∋゚)「カマワナイカ コイツ マネイテモ」

ξ;゚听)ξ「うーんうーん……」

暫し片頬に手の平を当てて熟慮し、

ξ゚听)ξ「……まずクックルだけ先に入ってきて! 」

そう命じた。
クックルは内藤に声を掛けるでもなく、呆れ顔でそそくさと屋敷内に入っていった。

101 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:05:18.08 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「ヨシ ハイレ」

やや待っていると、扉の向こうからクックルの胴間声が聴こえた。

( ^ω^)「そいじゃ……お邪魔しますお」

内部の造りは、外観ほどの奇抜さは見受けられなかった。
漆喰塗りの淡い乳白色の壁に、直線状の柾目が走った米松の天井。これは余所でも頻繁に目にする。
石材を敷き詰めた床には多少違和感を覚えたが、仰天する加減でもない。
あえて苦言を呈すなら、和式の建物よりも、若干風通しが悪いような、そんな感触である。

ただ履物を脱ぐ場所が見当たらない。玄関を過ぎると、あとはもう廊下がそのまま続いている。

( ゚∋゚)「ソノママ アガレ」

(;^ω^)「正気かお」

だが郷に入っては郷に従え――内藤は大人しく、言われるがままにした。

(;^ω^)「うう、変な気分だお。誰かに目撃されたら確実に躾がなってない奴だと思われるお……」

と、ここであることに気づく。

( ^ω^)「あれ、ところで、ツンはどこにいるのかお」

102 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:09:37.86 ID:kSch0PMr0
「ここよ!」

何処からか声のみが上がった。

(;^ω^)「ど、どこだお? 声はすれども姿は視えず……完全に幽霊じゃないかお!」

ξ゚听)ξ「バカ! ここにいるわよ、ここに!」

ひょっこりと、黒服の背中から少女の顔が突き出た。説明するまでもなくツンである。

( ^ω^)「なんでそんなところに隠れてるんだお」

ξ゚听)ξ「うるさいわね! いいでしょ、別に」

そしてまた顔を引っ込める。

それが照れなのか、羞恥心なのか、臆病なのか、用心なのか、
もしくは自分への嫌悪感を露骨に示しているのかは、内藤にはまるで判らぬ。

(;^ω^)(でも最後の理由だったら、嫌だなあ……)

計画が円滑にいかぬという根本的な問題だけではなく、
他人から忌み嫌われるということが、この生一本な青男には一等堪える。

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 01:11:18.44 ID:uY4rYOr9O
支援

104 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:13:43.98 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「オジョウハ ヒトマエニハ ナカナカ デナイカラナ。 ワカレ」

(;^ω^)「ふへえ」

( ゚∋゚)「マアデモ コウシテ マヂカニナルノモ クスリヤガ ハジメテカ アルイハ フタリメカ サンニンメ」

ξ゚听)ξ「余計なこと言わないでいいの!」

そのようなことを真顔で教えられても内藤は返しに困るだけである。

また、ひとつ脳裏に浮かぶ。

(;^ω^)(あれ、これってもしや風説に違わないんじゃないのかお)

ただそれにしてはお転婆が過ぎるようにも見えるし、身の固い女の典型例とは随分かけ離れている。

( ^ω^)(いやいやまさか。
      こんだけ気ままに振る舞ってるのに、人間に不信感を持ってるとか、悪い冗談にしか聞こえんお。
      恥ずかしがりなだけなのかお? そのくせには、強気っていうか……勝ち気な)

突っ撥ねてはいるが、特別激しく拒絶しているようには感じ取れない。

珍妙な奴だ。
そう思った。

105 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:17:10.15 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)(んー……それにしてもだお)

小窓から半身を突き出して己を鳥瞰しているところを仰ぎ見ていた時はよく判らなかったが、
近くで注視すると、中々どうしてかわいらしい容姿をしているではないか。

二つ並んだくりっとした瞳は、自分と同じような黒と茶の入り混じった色ではなく、澄んだ萌黄色。

おそらく碌に外出していないせいもあるのだろうが、肌は限りなく透明に近い白さを誇っている。
拗ねて少し先を尖らせた口唇は対照的にうっすらと紅い。
すらりと通った西欧人独特の高い鼻梁は、このあたりではまずお目にかかれまい。
童女とは思えぬほどはっきりとした顔立ちである。

そして印象的なやや金色がかった橙の髪。

これが和蘭の血の少女か――内藤はそんなふうに感想を抱く。

しかしながら纏っている服は、黄檗染めの鮮やかな縮緬地の小袖である。
そのためか、不自然とまではいかぬが、あどけない表情とも合わさってどうにも不調和に見える。

( ^ω^)(待てよ、これが逆に新感覚なのかも……いやないか)

小さいから、クックルの背に隠れてしまうと、その矮躯は完全に見えなくなってしまう。
そこから仔犬のようにちょこちょこ顔を覗かせて時折こちらの様子を伺っているのも、また愛らしい所作である。

106 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:20:53.11 ID:kSch0PMr0
客間に通された。畳ではなく、艶消しの板敷きである。これはこれで趣がある。

( ゚∋゚)「チャデモ ノンデイクカ」

( ^ω^)「いやお構いなく……それよりもだお」

腰を下ろして籠中を漁り、今日持ち運んでいた薬を二、三品並べた。
クックルとツンも座る。ツンはさして興味もなさそうで、クックルにひっついたきりである。

( ^ω^)「こちら熱冷まし、そちら喉薬。どっちも夏風邪に抜群に効くからおすすめだお」

( ゚∋゚)「イクラダ」

内藤は指を数本立てて示す。

( ゚∋゚)「ヤスイナ! ソンナンデ ヤッテケルノカ クスリヤ」

( ^ω^)「損して得とれが父から学んだ信条でして」

そう応えて、内藤はまた何やらごそごそと籠から薬剤を取り出した。

( ^ω^)「まだまだいろいろあるお。
      鎮痛剤や解毒剤、地黄や酸棗仁から精製した自作の特製漢方まで揃えてあるお。
      んでこれは、えーと、なんだっけ……ああそうだ、止血剤だお。危ない仕事の時には重宝するお」

内藤がうっかり口を滑らせたことに気づくのにそう刻は要さなかった。

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 01:23:22.84 ID:jHFCK5qA0
ほうほう

108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 01:26:44.47 ID:4nl4y4bG0
支援

109 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:26:44.80 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「アブナイ シゴト? チノ デルヨウナカ?
     クスリヤヨ オレノ シゴトノ ナカミ シッテルノカ」

(;^ω^)「ううん……もうごまかせないから言っちゃうけど、
      ツンは使用人だっていうけど、あんたは用心棒的なこともしてるって町の人に聞いたんだお」

このぐらいなら障りないだろう――と、内藤は嘘と正直の境目が判らぬ告白をした。

( ゚∋゚)「ヒテイ シナイ。 トイウヨリ ムシロ ソッチガ ホンショクダナ」

ξ;゚听)ξ「ええっ、そうなの?」

(;^ω^)「警備されてる本人が自覚してなかったのかお……」

( ゚∋゚)「オジョウハ ソウイウ トコロ アル」

( ^ω^)「あんたの気苦労が知れるお」

( ゚∋゚)「ソレヨリ モット ミセテクレナイカ――」

そうして竹籠を掴むために上半身を少し前に伸ばした時である。
クックルが羽織っている外套の内から、何か、ちんまりとした鈍い銀色の物体がぽとりと落ちた。
十字架である。
何の象徴であるか、内藤にはうろ覚えではあるが知識がある。

110 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:30:17.48 ID:kSch0PMr0
あれは、確か――。

( ^ω^)「――耶蘇教」

( ゚∋゚)「ミタカ」

重い、鈍器で殴りつけるような声色である。

(;^ω^)「な……なんのことかお」

( ゚∋゚)「ミタノカト キイテル」

あらん限り顔面を接近させてクックルは凄む。白い額の天庭にまで、くっきりと青筋が浮かび上がっている。

内藤はただならぬ悪寒を覚えた。
殺気立っている。今にも自分の喉元に喰いかかってきそうな、物々しい剣幕である。

(;^ω^)「いやいやいや! ちょい待つお! 見たことは見たけど!」

( ゚∋゚)「ヤハリ ミタノカ クスリヤ!」

(;^ω^)「見たけど! いきなり恫喝される意味が分からんお!」

不意に、ぷっと噴き出す音があった。ツンである。

111 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:34:15.69 ID:kSch0PMr0
ξ゚听)ξ「あはは、クックル、怖がらせるのもそのぐらいにしなさいよ。別に隠すほどのことでもないじゃない。
      ないとーみたいな間抜け面がそんなの知ったって、何も問題ないでしょ?」

( ゚∋゚)「ウーン タシカニ タシカニ」

宥められてクックルは引いた。

(;^ω^)「助かったことは助かったけど馬鹿にされてる感は否めないお」

緊迫から解放された内藤は、飛瀑のように流れ出た冷や汗を袖でごしごしと拭く。

ξ゚听)ξ「クックルはイエス様の教えを大切にしてるのよ。
      その十字架をずっと離さず持ち歩いてるし、毎日ちゃーんとお祈りもしてるし。
      ええと、確か、向こうの言葉で――」

( ゚∋゚)「クリスチャン」

横からクックルが口を挟んで補った。

ξ゚听)ξ「そう、それ!」

ツンは、ぱちん、と平手を打ち合わせた。

112 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 01:36:32.76 ID:kSch0PMr0
ξ゚听)ξ「よーするに、クックルはとっても熱心なクリスチャンなの。
      あっ、ちなみに私もよ。おとーさんも、おかーさんも、そうだったわ」

まったく自慢になってはおらぬのだが、ツンは妙に居丈高である。

( ^ω^)「クリスチャン――ああ、切支丹のことかお。ん?」

ふとした拍子に内藤は奇異に思い首を傾げた。
国内にいた切支丹は随分昔に禁教令で弾圧され、国外追放か、酷い場合は極刑に処されたはずである。
つまりは――隠れ切支丹か。

(;^ω^)(あれ、でも布教目的じゃなかったら教徒であっても罰されなかったんだっけ)

そのあたりの規律に関する記憶は胡乱である。

( ^ω^)「ふうん、しかし……切支丹、切支丹ね。こんなおっかない大男が敬虔な信者だとは、世も末だお。
      どう見ても人間の一人や二人抹殺してそうな風体じゃないかお」

内藤は、はじめ皮肉交じりの冗句のつもりで言った。
しかしながら二人は、至って真面目な顔を保ったままである。

ξ゚听)ξ「どうだったっけ?」

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 01:42:25.04 ID:jHFCK5qA0
おやすみ支援

114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 02:02:56.54 ID:jJ356wIUO
しえ

115 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:12:21.24 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「リョウテデ カゾエラレナクナッタ サキカラハ オボエテナイ」

(;^ω^)「ぶほっ!」

内藤は思わず咳き込んだ。
むせて鳩尾をどんどんと叩く。
そのような諧謔をさりげなく扱えるような、洒落っ気を備えた男には見えないものだから、変に信憑性がある。

(;^ω^)「それ、まじで言ってんのかお」

( ゚∋゚)「……」

(;^ω^)「ああその目は本意気ですねすみませんごめんなさい命だけはご勘弁」

巨体の脇で、ツンがくすくすと口に手を当てておかしがっている。

(;^ω^)「てか切支丹なのに、殺したとか、教えに反してるんじゃないのかお」

ξ゚听)ξ「あら知らないの。『やっちゃえ!』って神様が命令してることなら、それは正しい行いになるのよ。
      でも自分で死んじゃうのはダメ。一番やっちゃいけないことだって、おかーさんが昔教えてくれたわ」

( ^ω^)「ほうほう」

内藤は黙って頷くのみである、聖書の内訳など知る由もない。

116 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:17:16.41 ID:kSch0PMr0
代わりにギコの科白を思い出す。

『我々は悪行と重々承知して動かねばならぬ』
『たとえ己の正義に基づく行為であっても、我々がこの先為すべき所業は誰にも許されぬ』

真逆だ。思想と行動理念が、まったくの正反対。

( ^ω^)(どっちが……正しいのかお)

たぶん、その答えは当面の間は導き出すことはできないだろう。
内藤は胸裡でひとまずの決着をつける。

ξ゚听)ξ「……とまあ、つまりそういうわけ」

床板が軋む音で現実に引き戻されると、どうやらちょうど今ツンは語り部役を終えたところらしい。

( ゚∋゚)「ソノトオリ。 オジョウ マモルノハ オレノ セイギ。
     ワレラガ カミガ ソウシロト オレニ テンケイヲ サズケテクレテイル」

( ^ω^)「へえ、そういうものなのかお」

( ゚∋゚)「……モットモ オジョウハ ショウショウ イイスギテル ブブンモ アルガ」

(;^ω^)(ってやっぱりいささか誇張気味なのかお)

117 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:19:13.03 ID:kSch0PMr0
PCやばいんでikkai saikidou

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 02:20:12.11 ID:RcM8MseTO
支援でござる

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 02:21:48.90 ID:n6Vlb+JHO
見てるよー
がんばれ、支援

120 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:29:01.38 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「ダガ オジョウノ カイシャクハ オオスジハ アッテイル。
     ジジツ カミノ オツゲヲ カザシテ オオクノ アラソイガ オキテイルダロウ」

思い当たる節がある。

書の記録でしか読んだことがないが、百年以上前、この日本でも耶蘇教が原因で戦乱が起きたと伝え聞く。
加熱の始まりは、確か島原だったか。
だが詳しくは覚えておらぬ。やはりこれもまた曖昧模糊な記憶である。

( ゚∋゚)「マア ソレハ ドウデモイイ ハナシダガ――」

そこでようやくクックルは転がる十字架を拾い、また懐の中に潜めた。

( ゚∋゚)「サテ クスリヤ。 ヨコミチニ ソレタ ハナシヲ モトニ モドソウカ。
     ノドグスリト イチョウヤクト シケツザイヲ アルダケ ウッテホシイ」

( ^ω^)「はいはい、どうもだお」

薬を集めて手渡し、クックルから金銭を受け取る。商談成立である。

ξ゚听)ξ「やっと終わったの?」

ツンは猫めいた所作で目尻をこすり、欠伸をした。
余程内藤たちの対談が退屈だったようで、腕を上に掲げて大きく伸びをしている。

121 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:31:51.75 ID:kSch0PMr0
ξ゚听)ξ「ふう、長かったー。やっと、ないとーがおうちから出ていってくれるのね。
      じゃあね。さよならさよなら」

(;^ω^)「おいおい、その挨拶は素っ気なさすぎやしないかお」

ξ゚听)ξ「だって、ないとーって、やっぱり怪しいじゃない。顔も変だし」

(;^ω^)「顔は関係ないじゃないかお」

ξ゚听)ξ「まったく、クックルも、怪しい人を簡単に招くだなんて、私はまだ認めてないのよ」

( ゚∋゚)「オジョウ キゲン ナオセ。 コイツ ソンナ ワルイヤツジャ ナイト オモウゾ」

ξ゚听)ξ「そうかしらね」

つんと澄ました少女は下唇を噛んで口をヘの字にした。内藤は、微量の居心地の悪さを覚える。

( ゚∋゚)「ソウ キニスルナ クスリヤ。 オレガ ゲンカンマデ オクッテイコウ」

( ^ω^)「頼んだお」

籠を背負ってよいしょと立ち上がり、玄関口へと内藤は長時間の正座で痺れた足で歩く。
後ろからクックルがついてきている。
来賓を快く送り出すための気遣いか、それともあくまで任務に則った監視のつもりか。

122 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:34:00.09 ID:kSch0PMr0
( ゚∋゚)「ソレニシテモ オマエノ ヤクソウノ ハナシハ オモシロカッタ」

( ^ω^)「そうかお。それじゃ今後とも、我が身ともどもご贔屓に頼むお。
      ……あの女の子からしたら、僕が来るのは邪魔なのかも知れないけど」

( ゚∋゚)「イヤイヤ ソウイウワケデモ ナイト オモウゾ。
     オジョウガ アソコマデ ヨソモノト ハナスノハ ソウソウナイコトダ」

( ^ω^)「はあ」

( ゚∋゚)「マタ クルガイイ」

そう言い置いて、漆黒に包まれた用心棒は、その身の丈には狭すぎる廊下を渡り奥の室に控えていった。

一人残される。耳鳴りがする。
静寂が下りた中で、内藤は当初の目的の進行具合をを確認する。

( ^ω^)(ううむ、最初にしてはまあまあ印象はよかったんじゃないかお。
      あの用心棒のほうは中々手応えがあったお。問題は……やっぱりもう一人のほうかお……)

そんなことを整理をつけつつ考えていると、

( ^ω^)「ん?」

伸びた廊下の果てから、とたとたと走り寄ってくる人影が内藤の目に飛び込んできた。
ツンであった。

123 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:38:36.79 ID:kSch0PMr0
内藤はここで初めてツンの全身図を目にした。
華奢である。顔立ちのせいで西洋人形のようにも、着物のせいで和人形のようにも映る。

( ^ω^)(見送りにでもきたのかお。意外とかわいいところもあるもんだお)

その人形は幾らか手前で止まり、一度内藤の顔を見やると、

ξ゚ー゚)ξ「んべえ」

手を後ろに組み、ほんの少し腰を屈めて、緋色の舌をぺろりと出した悪戯な表情を見せてからすぐに走り去った。

(;^ω^)「……」

組み上がっていた夢想への盛大な裏切りである。

( ^ω^)「こいつは……どうやら……」

一筋縄にはいきそうにない。

(;^ω^)(やっぱ噂通りなんじゃないかお……)

そんなことを心の裡で呟きながら、内藤はツンの屋敷を後にした。

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 02:40:42.92 ID:0JWjGZ4FO
しえ

125 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:41:42.56 ID:kSch0PMr0



(,,゚Д゚)「わははは、そうか、やはり驚いたか」

ツンの屋敷から帰宅したその日の晩、ギコは笑いを噛み殺しながら現れた。

(,,゚Д゚)「俺の情報だけでは、ツンの年齢など読めなかっただろう、わはは、はは」

まだ目を弓にしている。
今夜も出した茶は飲まれずじまいで冷めている。

(;^ω^)「せっかくなら前もって言っておいてほしかったお。ツンは子供だって……」

(,,゚Д゚)「くく、それだとこうして貴様の反応を見て楽しめんだろう」

(;^ω^)(なんという知略……)

(,,゚Д゚)「まあしかし、俺の言ったこともよく分かっただろう。色恋沙汰などありえぬ、ということがな。
    貴殿が童女趣味の赤烏帽子であるなら話は別だが」

(;^ω^)「勘弁してくれお」

肩の力が抜ける。分の悪い賭け事をやり終えた後のような、気の抜けた脱力感に襲われていた。

126 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:44:51.94 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)「第一、僕は年上が好みだお。包容力のあるお姉さんみたいな女性が恋しいお」

(,,゚Д゚)「ほう、いい趣味をしておるな」

元より内藤は、町の淡い灯に晒されたしっとりとした肌を好む。
張りと弾力のある、瑞々しい肌も悪くはないが、それは内藤には刺激が強すぎる。

( ^ω^)「あれじゃまだ世間の波に洗われ足りてないお。
      僕の半分程度しか生きてないような子供に女の色香が出せるわきゃないお」

(,,゚Д゚)「ふむふむ、成程な。しかし貴殿より上となると、もう後家しかおらぬだろう」

( ^ω^)「構わんお」

(,,゚Д゚)「……ははあ」

にやけながら、ギコは内藤の顔を、例の「全てを暴き立てるような目」で見つめる。

(;^ω^)「な、なんだお」

(,,゚Д゚)「内藤よ」

身を大きく乗り出して、囲んでいる囲炉裏に覆いかぶさり、反対側の内藤に痩せた顔を近づける。

127 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 02:49:02.31 ID:kSch0PMr0
(,,゚Д゚)「俺はひとつ、貴殿について解ったことがあるぞ」

内藤は、どきり、とする。

(;^ω^)「何が……解ったのかお」

(,,゚Д゚)「貴殿は――自分の理想に適う女性に、母親の影を重ねているだろう」

部屋を移ろう時間の概念が、その刹那、ぴたりと停止した。

(;^ω^)「……」

内藤はギコの指摘以降目を伏せ黙したきりである。
だから響くのは蟋蟀が羽を擦り合わせる音ばかりで、他には時々、内藤が唾液を呑み下す音がするくらいである。
お互いの心臓が脈打つ音が聴こえてきそうなほどに、ひたすらに静かだった。

(,,゚Д゚)「当たりか、外れか」

やはり内藤は応えない。
応えない、否、応えられないのは――図星だからだ。

ギコの洞察どおり、内藤は女性に対して母の面影を求めてしまっている。
この歳になるまでに女性との付き合いが一度たりともないのもそのことが元凶である。

128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 02:59:59.26 ID:nUMSz6g9O
またさる

129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 03:02:25.62 ID:n6Vlb+JHO
だめだ眠い
昼まで残っててくれ

支援

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 03:02:41.31 ID:0yfEQUsIO
しえ

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 03:10:31.15 ID:dPsEhDCIO
支援支援

132 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:17:02.29 ID:kSch0PMr0
結婚は家同士でするものである。当然花嫁は家が用意する。
ところが内藤家には長男坊の内藤しか生存しておらぬ。
ゆえに内藤は自分で相手を見つけねばならない。母の幻影を、振り払わねばならない。

ただ、どちらにせよ、恋愛の末に結ばれる夫婦など、浮気な結婚だと蔑まれるのが通例である。
それは仕方のないことだ。内藤も夙に諦めている。

( ^ω^)(母ちゃん……か……)

内藤は小さい頃より母のことが好きだった。
一際美しく、優しい母の傍にいることが、幼少の内藤には至上の幸福だった。

だから、母が長岡の手によって殺されたと聞かされた時は誰よりも悲しんだ。

( ^ω^)(いや……さすがに当時は、父ちゃんには及ばなかったかも知れないお)

まだ物心がつききっていない頃だったから、惨殺ということがよく分からなかった。
後々父の恨みつらみを受け止められるようになってようやく、その無情さを身に沁みて理解した。

内藤は長岡を憎み続けた。
何度眠る前に寂しさに耐えかねて枕を濡らしたか知れない。
父から最愛の妻を、自分から最高の母を奪った長岡は、この徳川の御代で最大の悪であると、ずっと信じていた。

それゆえ、長岡を殺害したとギコからの報告があった時は、胸がすっとするような想いであった。

133 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:24:22.91 ID:kSch0PMr0
ただ――それも最早過去のことである。
母も、父も、長岡も、もうこの世には――存在しておらぬのだ。

(,,゚Д゚)「まあ、こんなことは、丸きり関係のないことだな」

事態を察したギコは、早々に話題を切り替える。

(,,゚Д゚)「それよりだ……どうであった。実際に接近してからの感触は」

( ^ω^)「……はい」

内藤は昼の、西洋式の奇抜な屋敷での出来事を洗いざらい話した。

ツンとはどのような少女であるか――。
クックルの対処はどうすべきか――。

皆まで語った。

(,,゚Д゚)「……ふうむ、そうか。ツンという女は、実態はそのようであったのか」

話を聞かされたギコは、内藤が予期していたとおり意外そうな顔をしている。

134 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:28:05.89 ID:kSch0PMr0
(,,゚Д゚)「それにしても盲点だった。成程な、そうであった。
    噂の用心棒――クックルとやらにも、いちいち取り入らねばならぬのだな」

( ^ω^)「でも、そっちのほうがなんだか順調な感じがするお」

(,,゚Д゚)「ふむ、そいつは僥倖かな」

(;^ω^)「だけど、さっきも話したと思うけど、
      ツンのほうはなんというか、疑い深いとかとは違う方向で、僕を遠ざけているような気がするお」

若干の不安を見せる。ギコは首を横に振り、

(,,゚Д゚)「そう早い段階から懸念することはなかろう
    大体だな、発想を転換してみろ、初顔でそれなら、いっそ踏ん切りがついてよいではないか。
    最初から慕われでもすれば、要らぬ父性が目覚めてしまうやも知れぬからな」

図らずも、計画の発案者たる素浪人は喜ばしそうである。

(,,゚Д゚)「この策は貴殿の感情が最大の争点になると前々から考えておったのだが、どうやら無駄骨だったようだ」

( ^ω^)「はあ……そういう、ものなのかお」

内藤にはこうした場面でなんと言っていいやら分からぬ。

(,,゚Д゚)「仮に情が移るとすれば、まだ幼い小娘の命なぞ奪いたくない――という気に至ることだが」

( ^ω^)「それは……大丈夫だお。天と地と、そして誰あろうギコさんに誓うお」

135 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:31:38.28 ID:kSch0PMr0
(,,゚Д゚)「ふははは! 頼もしいことよ」

ギコは磊落な笑いを返した。
今宵は昨晩とは違いひどく蒸し暑い。内藤もギコも共に鎖骨に汗が溜まっている。

( ^ω^)「それよりも……だお」

(,,゚Д゚)「む、なんだ?」

( ^ω^)「ギコさんは、どうして……あんな小さな子に対して殺意が芽生えているんだお」

内藤は、帰宅以後ずっとその事柄が頭から離れなかった。
和蘭人であること。失踪した両親。残された娘。一人付き添う使用人兼用心棒。大きな邸宅。裏の畑。町外れ。
どこに動機の種が隠されているのかてんで解らぬ。

(,,゚Д゚)「……それは、まだ言えぬ」

ギコは声の調子を一気に落とした。本当に言いにくそうだった。

(,,゚Д゚)「貴殿の決意が揺らぐかも知れぬ。貴殿の刃が鈍るかも知れぬ。
    先程告げたとおり、この策の肝は――内藤が感情に左右されぬかという一点にあるのだ。
    その妨害になるようなことは今は答えられない」

ギコは口を一文字に結ぶ。

136 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:33:25.73 ID:kSch0PMr0
( ^ω^)(まあ……そんなふうな答えが返ってくるとは、なんとなく予想していたお)

(,,゚Д゚)「すまぬな」

( ^ω^)「いや……ギコさんの言い分は、もっともだお」

長い沈黙が流れる。やがてギコは尻を浮かせる。

(,,゚Д゚)「俺はそろそろ隣町の宿に戻る――くれぐれも一時の情に棹されるでないぞ」

念を押すようにギコは言の葉を投げかけた。

( ^ω^)「分かってるお」

内藤は首肯する。

とはいえども、本音を吐露してしまえば、確固たる自信があるわけではないのだ。
そのような弱音をギコに吐くことができようか。
もしも漏らしてしまおうものならばギコからの信任は全て失われてしまう。決して初志を曲げてはならぬ。

( ^ω^)(相変わらず……口では何とでも言えるお)

ギコが帰路に就いた今だからこそ、尚更そう強く感じる。

137 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 03:34:18.26 ID:kSch0PMr0
とりあえずずここまで
ありがとうございました
寝る

                .,__  ., \
           ‐-;-.,_ "''=;- .,_\ \\
             "‐ニ‐-> "`"'-' \
      ______二)          ヽ
         ̄"'''─-、             ヽ
   ̄ ̄ ̄ ̄    三                ヽ
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        ――         <_/____/  |
    _____                   !
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                 ヾ./_     _   //
                、ー`、-、ヾ、、,  、, /i/
                 // ./// /
                 /  / / /

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 03:42:48.04 ID:CJDgBp5t0
乙でした。

次回を楽しみ待ちます。

139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 04:48:03.31 ID:L8bzKyYRO
続きが楽しみ

ひとまず乙

140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 07:20:21.53 ID:rnsP5Q4AO
おつ

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 08:29:15.52 ID:hK3uLW7qO
ほっ

142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 08:35:52.54 ID:f4YYvN860
もしかしたら読むほ、っと

143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 09:20:51.66 ID:dQkfIkjaO
何をしてる!
保守しないか!!

144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 10:56:21.59 ID:hK3uLW7qO


145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 11:55:20.13 ID:dQkfIkjaO
ほしゅ

146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 12:32:56.01 ID:UNgtv+fm0
ぬるぽしゅ

147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 12:48:42.17 ID:xykLfuN3O


148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 13:05:13.21 ID:tw5QLiw/0
imakita

149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 13:33:10.81 ID:KaBk3HvAO
身勝手に話しているだけだが意外にも耳触りはそれほど悪くない。

ゆとり文盲め

150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 13:51:09.47 ID:5EpGgOPIO
起きろー

151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 14:01:57.33 ID:EgVnEdmb0
ブーン系は話が一段落する度にスレを立て直す形式だから落としてもいいよ

152 : ◆zS3MCsRvy2 :2010/07/02(金) 14:34:42.58 ID:kSch0PMr0
耳障り
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E8%80%B3%E9%9A%9C%E3%82%8A&stype=0&dtype=0
耳触り
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E8%80%B3%E8%A7%A6%E3%82%8A&stype=0&dtype=0

違うよ。全然違うよ



また土日に来ます

153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/02(金) 14:37:28.93 ID:Gnsl4tdE0
これがブーメランというものか

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